ECP 有効内殻ポテンシャル

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有効内殻ポテンシャル (Effective Core Potential: ECP)

背景

基底関数には、それぞれ適応範囲があります。例えば、6-31G は 水素H から クリプトン Kr までが適応範囲です。ルビジウム Rb 以降の元素を扱う場合には別の基底関数を指定する必要があります。(こちらのページに分かりやすくまとめてあります: Basis Sets Exchanger

周期表の下の方の元素は、多くの内殻軌道を持っています。これらの軌道は、化学的にはそれほど重要ではないのですが、数学的に表現するのに大きく 2 つの問題点があります。

  1. 対応する軌道を記述するためには多くの基底関数を使わなくてはいけません。それにも関わらず、電子ー電子間の反発の表し方が不正確なため、原子価軌道を正確に記述することは困難。
  2. 周期表の下半分の原子では、相対論の効果も考慮しなくてはならない。そのため周期表上部の原子とは記述方法を変えなくてはいけない。

これらの問題点を解決するために考案されたのが、ECP です。内殻電子を”ポテンシャル“として近似する ECP は、計算コストを大きく減らすことができる上に、高い再現性を与えています。

化学者の間では Effective Core Potential: ECP と呼ばれることが多いですが、物理学者の間では Psedopotential: PP と呼ばれます。

設計指針

ECP のデザインに際して、4 つの設計指針があります。(参考文献)

  1. Generate a good-quality all-electron wave function for the atom. This will typi- cally be from a numerical Hartree–Fock, a relativistic Dirac–Hartree–Fock or a density functional calculation.

  2. Replace the valence orbitals by a set of nodeless pseudo-orbitals. The regular valence orbitals will have radial nodes in order to make them orthogonal to the core orbitals, and the pseudo-orbitals are designed such that they behave correctly in the outer part, but without the nodal structure in the core region.

  3. Replace the core electrons by a potential parameterized by expansion into a suit- able set of analytical functions of the nuclear–electron distance, for example a polynomial or a set of spherical Bessel or Gaussian functions. Since relativistic effects are mainly important for the core electrons, this potential can effectively include relativity. The potential may be different for each angular momentum.

  4. Fit the parameters of the potential such that the solutions of the Schrödinger (or Dirac) equation produce pseudo-orbitals matching the all-electron valence orbitals.

実例

Gaussian では、LanL2DZ や CEP31 G などが用意されています。これらのキーワード中の 31G や DZ は価電子の軌道に対しては double-zata であることを意味しています。

例として Ag 原子について考えてみましょう。Ag 原子には 47 個の電子があり、電子基底状態の電子配置は

(1s)^2(2s)^2(2p)^6(3s)^2(3p)^6(3d)^{10}(4s)^2(4p)^6(4d)^{10}(5s)^1

です。基底系としてLanL2DZ を用いた場合、47 個の電子のうち

(1s)^2(2s)^2(2p)^6(3s)^2(3p)^6(3d)^{10}

の部分の 28 個の内殻電子に対しては、各々に基底関数を割り当てずにまとめて有効内殻ポテンシャルで置き換えて、残りの

(4s)^2(4p)^6(4d)^{10}(5s)^1

部分の 18 個の価電子に double-zeta 基底関数を割り当てます。全電子を VDZ レベルで取り扱うと 36 個の基底関数が必要ですが、LanL2DZ では 22 個で済むため、計算コストを小さくすることができます。

また、相対論を考慮した ECP も開発されています。

注意点

ECP 近似を使う際には、二つの基底関数を使うことのできる GenECP を使う場合が多いと思います。その場合、座標情報の下にどの原子にECP を用いるかを書きます。
以下に例を示す。

Ni,Br 0
LANL2DZ
という部分を二回書いているため、二回目の記述を不要だと勘違いし削除してしまうという間違いが多く見られます。
一回目は原子価軌道の指定であり、二回目は内殻軌道の指定です。

すなわち、二回目の

Ni,Br 0
LANL2DZ

を記述していないと、内殻軌道を指定できていないことになります。

また、基底関数を指定されていない原子があるために計算が始まらないといったミスもよくあります。

豆知識

LanL2DZ は、アメリカのロスアラモス研究所(Los Alamos National Laboratory)で開発されたので、研究所名の頭文字をとって命名されました。(参考文献 2)

参考文献

  1. Introduction to Computational Chemistry 2nd Ed.
  2. “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for K to Au including the outermost core orbitals” W. R. Wadt, P. J. Hay, J. Chem. Phys., 1985, 82, 299-310.

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