ノートの書き方【計算化学】

実験系の研究者にとってノートを書くことは常識です。
しかし不思議なことに、実験系の研究者が計算化学を始めるとノートを書かないというケースが多く見られます。

おそらく、計算化学は log ファイルが残るため、ノートを書かなくても良いという認識に基づいての行動だと思います。しかし、研究ノートは事実を書き残すためだけのものではなく、自分の考察をまとめ、書き残すという点においても重要です。

世の中には、実験ノートの書き方についての本が多数出版されているにも関わらず、計算化学のノートの書き方についてまとめた書籍はありません。この記事では、ノートの書き方についてのアドバイスをいくつか紹介します。

計算内容を書き残す

ノートの書き方を説明する前に、ファイル名について話したいと思います。計算を投げるときの job のファイル名として最悪なものは、「日付 + 化合物名 + 計算の種類」のようなものです。例えば、

20170228-suzuki-coupling-ts-irc.com
20161228-C-H-activation-M062X-NMR.com
20150612-Ni-complex-opt.com

このようなファイル名では、数ヶ月後に見返したときに内容がわかりません。また、うまくいかなかった計算などがたくさんある場合に、ファイル名の末尾に番号をつけていくと、さらに分かりにくくなっていきます。例えば、

20170228-Ni-complex-opt.com
20170228-Ni-complex-opt2.com
20170228-Ni-complex-opt3.com

管理人はファイル名には、通し番号をつけるようにしています。
分かりやすいように「自身のイニシャル+プロジェクトの略称+通し番号」といった感じです。

そして、計算内容については Excel などでまとめて、ある程度たまったらプリントアウトして自身のノートに書き留めておきました。書く内容としては、日付、目的、計算手法、基底関数、計算の内容などなどです。基本的に実験と同じです。

でも、どうでも良い初期検討などは特に記録に残しません。例えば初期構造を作る際の半経験的手法(PM6)での構造最適化など。。。

結果の解析について

計算内容を書き残す以上に重要なのが、計算結果に対しての考察を書き留めておくことです。

管理人は、Keynote (PowerPoint でも可) に Gauss view のスクーンショット、結合距離・角度、電荷情報、考察、参考文献、関連情報などを書き残しています。また、log ファイル内の重要な部分に関しても貼り付けています。文章は全てコンピューター上で入力していますが、Chem Draw で書くのが面倒な複雑な立体構造などに関してはノートに手書きで書き残してます。手書きとコンピューターの早い方を選んでノートの作成をしています。

そして、keynote で作成したものをプリントアウトしてノートに貼り付けています電子ノートへの移行が進んでいる現代において、なぜノートなんか使ってるの?と思われるかもしれませんが、管理人はノートの方が見返しやすいと思っています。

また、ノートに貼り付けた後も気づいたことがあれば、手書きで書き込むようにしています。この際、管理人は蛍光ペンや赤色ボールペンを使うようにしています。個人的には黒一色のノートって視認性に劣ると思っています。

どのくらいの量を書くか?

実験ノートの表記法は有機化学系と生物系のラボで異なると思います。有機化学系の実験ノートは 1 ページ 1 実験という形式で実験番号ごとに記述していきます。よって、1 ページの中で日付が変わっていることがありますが、実験番号ごとにまとまっていて読みやすいです。一方で生物系は日付重視で、今日はこれやった、みたいな感じで書いていくため、一つの実験が飛び飛びのページに記載されているということが多いですが、時系列は追いやすいと思います。

管理人は、有機化学系のように実験番号ごとに記述しています。しかし、1 ページ 1 jobというわけにはいきません。Gauss View のスクリーンショットは複数の角度から必要になる場合も多いため、一つの計算に対してノートは 2-3 ページという場合もあります。

日頃からデータをまとめておく

keynote で計算データをまとめておくと、スライドを作るときに流用できるため作業が非常に楽になります。そこでもう一歩進んで、日頃からスライドを作っておくという習慣をつけてみてはどうでしょうか?データをまとめる過程で気づくこともありますし、研究を進める上でプラスになることばかりです。

新しい系に対しての汎関数や基底関数の検討を行っているのであればグラフを作成しておくのが良いでしょう。また、複雑な多段階反応を計算しているのであれば、エネルギーダイアグラムを書いておくのも良いでしょう。

 

この記事については、気づいたことがあったら、随時更新していきたいと思っています。こうした方が良いというアドバイスがあればコメント欄または管理人にメールしてくだされば幸いです。

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