D-Erythrose のアノマー化〜生体内非酵素反応の計算〜

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生体内の非酵素反応では、水の取り扱いをどうするかが重要な問題です。

水の取り扱いとしては、次の 3 つが考えられるのではないでしょうか?

  1. MD シミュレーションのように水ボックスの中に分子を入れる。
  2. 反応に関係しそうな水を数分子配置するクラスターモデルを作成する。
  3. 水分子を配置せず PCM で水の影響を考慮する。

などなどです。

先日、糖のアノマー化に関する 論文が JCC に出ました。水を考慮した生体内の非酵素反応の良い計算例だと思うので簡単に紹介します。

“Anomerization Reaction of Bare and Microhydrated D-Erythrose via Explicitly Correlated Coupled Cluster Approach. Two Water Molecules Are Optimal”
M. Szczepaniak, J. Moc J. Comput. Chem. in press DOI: 10.1002/jcc.24680

内容

糖の特徴的な性質として、環状アセタール構造と直鎖上構造という二つの構造を取ることができる、というものがあります。環開裂後の回転により \alpha(\beta)-anomer から \beta(\alpha)-anomer への変換が生じます。本論文では、D-Erythrose のアノマー化を計算化学を用いて明らかにしています。

anomerization_fig1
本論文では、D-Erythrose のアノマー化に水分子が関与しない場合、1〜3 分子関与する場合についてそれぞれ計算しています。今回の計算では、2 分子の水を配置したクラスターモデルで最も活性化エネルギーが低かったそうです。クラスターモデルで計算行うときに水分子の数により活性化エネルギーに差が出る原因は、遷移状態(TS)の構造の安定性です。今回の例では、水が 0 分子の時の遷移状態構造(TS)は、歪みの大きい 4 員環を形成しているため不安定です。水分子が 1 つの時は水周りの結合角度がキツ過ぎるため、まだまだ不安定です。一方、水が 2 分子の時は、全体的に程よい結合角、結合長となるため安定です。

anomerization_fig2

計算レベル

本論文では、M06-2X/6-31++G(d,p)、MP2/aug-cc-pVTZ、G4 を用いて構造最適化が行われ、これらの座標を用いて CCSD(T)/aug-cc-pVTZ で一点計算が行われました。CCSD(T)-F12 に照らし合わせて考えた場合、G4 の計算結果が最も良かったそうです。

今回の計算では、環開裂に伴う活性化エネルギーは約 170 kJ/molでした(約 40 kcal/mol)。しかし、水分子を 1,2,3 分子と加えていった場合、活性化エネルギーはそれぞれ 103.6 KJ/mol, 85.4 KJ/mol, 99.6 KJ/mol へと変化しました(それぞれ約 24.6 kcal/mol, 20.3 kcal/mol, 23.7 kcal/mol)。

クラスターモデルは、慣れないうちは構築するのが難しいと思いますが、使いこなすことができれば大幅に計算コストを削減することができます。しかし、水分子の置き方により化合物のコンフォメーションが変化することが多々あるため、”本当に溶液中の状態を表しているか?”と言われれば、疑問が残ることも確かです。しかし、このような反応では計算化学はあくまで「モデル」として用いられているだけであり、生体内の環境を何から何まで細かく再現する必要はないと個人的には思っています(無機塩などの cofactor の存在を考え始めたらキリがない!)。化学的考察ができれば十分なのではないかと思います。

その他

Corresponding Author の Jerzy Moc は、ポーランドの理論化学者。GAMESS (US) の開発・メンテナンスを行っているIowa 州立大学の Mark Gordon のグループでも研究員をしていた。

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参考文献

“Erythrose revealed as furanose forms” Carlos Cabezas, Isabel Pen ̃a, Adam M. Daly, Jose ́ L. Alonso, Chem. Commun. 2013, 49, 10826-10828. DOI: 10.1039/c3cc46405a

 

管理人は糖の専門家ではありませんので、間違い等ありましたらコメントまたはメールでお知らせください。

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