分子間に働く相互作用まとめ

分子間に働く力は、物理化学的な性質や構造的な特徴で分類することができます。

例えば、物理化学的な性質で分類した場合、クーロン力分散力静電力などに分けることができます。
一方、構造的な特徴で分類した場合、水素結合C-H$\cdots\pi$ 相互作用カチオン–$\pi$ 相互作用などがあります。

論文等では構造的な特徴で分類した場合の分子間力が議論されることが多いですが、それぞれ主要因となっている物理化学的な力は違います。これら分子間力の特徴を理解しておくと、計算をする際に最適な計算レベルを選択できるようになります。

例えば、分散力が重要な系の計算で、分散力を見積もれない基底関数を選択してしまうと言ったミスがなくなったり、汎関数のベンチマークを取った際にきちんと考察できるようになったり、といった効果が期待できます。

また X 線結晶構造解析においても、方向依存性の強い相互作用なのかどうか、距離が離れると急激に減衰するのか、徐々に減衰していくのか、などを見分けることによって適切な考察ができるようになると思います。

今回の記事では、分子間に働く相互作用を簡単にまとめてみました。
かなり雑な書き方なので、時間を見つけて適宜アップデートしていきたいと思います。

はぁー、最近時間がない。

興味のある方は 有機分子の分子間力: Ab initio 分子軌道法による分子間相互作用エネルギーの解析 などの専門書で勉強されることをお勧めします。

分子間力の種類

長距離力—クーロン相互作用が主要因。分子間距離のべき乗に反比例する。

  • 静電力: electrostatic
  • 誘起力: induction or polarization
  • 分散力: dispersion

短距離力—重なり積分の大きさにほぼ比例する。分子間距離が遠くなると指数関数的に急激に減衰する。

  • 交換反発力: exchange-repulsion
  • 電荷移動力: charge-transfer



静電力 electrostatics

静電力は分子の静的な電荷分布の間のクーロン相互作用である。電荷や双極子、四重極子などの多極子を持つ分子の間にだけ働く。

静電力のことをクーロン力と説明している文献もあるが、クーロン力は電荷の間の相互作用を示すため、誘起力もクーロン力に含まれる。分散力も電子の相関運動によるクーロン力の変化が原因である。

中性分子の間に働く静電力は強い方向依存性を持つが、球形のイオン間に働く静電力は方向依存性を持たない。

誘起力 induction or polarization

分子のもつ電荷や双極子が原因で生じる電場により分子が誘電分極することによって生じる引力。誘起双極子と永久双極子の間の引力。

カチオン-$\pi$ 相互作用などのイオンと中性分子の相互作用では、引力全体に占める誘起力の寄与が大きい。

カチオン–アニオン$\cdots\cdots$誘起力大きい
イオン –中性分子$\cdots\cdots$誘起力小さい
中性分子–中性分子$\cdots\cdots$誘起力は静電力の 1-2 割。静電力が小さいと誘起力の寄与も小さい。

誘起力のエネルギーの大きさは分離の分極率に比例し、分子の受ける電場の 2 乗に比例する。
そのため、分子の受ける電場が強くなると誘起力のエネルギーは急激に大きくなる。

Li$^+$ のような小さなイオンやアルカリ土類金属イオンのような多価イオンは、強い電荷を持つ。



分散力 dispersion

一時的に生じた双極子と誘起双極子の間に働く引力。電子の相関運動により生じる。
分子軌道法で分散力を計算する場合には、電子相関の補正が必要になる。

一時的に生じた双極子が原因となる分散力のエネルギーは分子間距離の 6 乗に反比例し、電場は分子からの距離の 3 乗に反比例する。

分散力は、$\pi$/$\pi$ 相互作用、CH/$\pi$, NH/$\pi$, OH/$\pi$, CH/O 相互作用、水素結合などでも重要。分散力の方向依存性は弱い。

交換反発力 exchange-repulsion

電子雲の重なりによって生じる短距離での斥力であり、重なり積分の大きさに比例する。分子間距離が離れていくにつれ、指数関数的に減衰していく。
強い方向依存性を持つ。

電荷移動力

電荷移動力は、分子軌道の重なりが原因で分子間に働く引力である。

2 つの分子の分子軌道が重なる短距離では、一方の分子の占有軌道からもう一方の分子のから軌道へと電子が流れ込み、会合体が安定化することがある。

電化移動力が水素結合の主要因になっていると言われることもあるが、閉殻分子間に働く引力の主要因は静電力、誘起力、分散力などの長距離力である場合が多い。このことは、計算によっても再現される。閉殻分子の分子間相互作用を計算すると長距離になるに連れて徐々に減衰する。

電化移動力が分子間の引力に重要な寄与をするのは、遷移金属の配位結合などごく一部の場合に限られる。

今後の記事では

今後の記事において、計算する系で主要因となっている物理化学的な相互作用に応じて、どのように汎関数や基底関数を選択しているかということに関しても説明していきたいと思います。

記事中に間違い等ある場合は、コメント欄、twitter またはメールにてお知らせいただけると幸いです。

参考文献

  1. 有機分子の分子間力: Ab initio 分子軌道法による分子間相互作用エネルギーの解析

関連する記事

汎関数一覧に戻る

計算手法に戻る

コメントを残す(投稿者名のみ必須)