遷移状態後の枝分かれでの Dynamic Effect

Share This:

計算化学の分野において PTSB (post transition state bifurcation) はここ数年で最も注目されている現象の一つであり、ここ 2、3 年で報告例が一気に増えてきたような印象を受けます!当ウェブサイトでも遷移状態後の枝分かれ反応(PTSB)の論文をこれまでにも紹介をしてきました。

参考Rh の C-H 挿入反応の新知見〜遷移状態後の枝分かれ〜

昨年には、Nature 誌にも生体内での PTSB の計算が掲載されていました。SAM 依存性酵素の環化反応というありふれた反応であるにも関わらず、Nature 誌に掲載されたのは Houk の計算があったことも一因でしょう。

“SAM-Dependent Enzyme-Catalysed Pericyclic Reactions in Natural Product Biosynthesis”
Masao Ohashi, Fang Liu, Yang Hai, Mengbin Chen, Man-cheng Tang, Zhongyue Yang, Michio Sato, Kenji Watanabe, K. N. Houk & Yi Tang
DOI: 10.1038/nature23882

最近、J. Phys. Chem. B に Semibullvalene の PTSB の論文が出ていましたので、簡単に紹介します。

“Dynamical Effects along the Bifurcation Pathway Control Semibullvalene Formation in Deazetization Reactions”
Nilangshu Mandal and Ayan Datta
J. Phys. Chem. B 2018, 122, 1239−1244. DOI: 10.1021/acs.jpcb.7b09533

概要


本論文では、DFT 計算および準古典的トラジェクトリー (quasi-classical trajectory)計算を用いて、tetrazine (1) とbis-cyclopropene から 2 種の semibullvalenes が生成する反応機構を調べています。基質からの N_2 の脱離は、ambimodal な遷移状態(TS1)を介して協奏的な経路で進行します。最小エネルギー経路(MEP)計算から予期される生成物である TS2 に加えて、TS1 から開始される軌道では、1:1:1 の比率で化合物 4、TS2、および化合物 5 が生成することがわかりました。また、同位体置換(C1、C2 位での ^{12}C^{13}C / ^{14}C)H(D)置換)した基質を用いて実験したところ、純粋な同位体効果が観測されました。これは dynamic effect が生成物制御に関わっていることを示す明確な証拠です。

計算手法

B3LYP/6-31G(d)M06-2X/6-31G(d) で構造最適化が行われています。エネルギー計算の際には TZVP を基底関数として使用しています。計算ソフトは Gaussian09 です。

TS のサンプリングには他の PTSB の論文と同様に SingletonProgdyn プログラム(参考文献 1) が使われています。PTSB の計算は gaussian のみでは求めることが出来ないため MD 計算を少し使います。rate constants の計算は TheRate プログラムを用いて行われています。 Rice−Ramsperger−Kassel−Marcus (RRKM) 計算には Beyer−Swinehart direct count アルゴリズムが使われています。

内容

今回の論文で用いられている tetrazine (1) と シクロプロペンの反応は  Houk によって既に反応機構解析が行われています。したがって、今回の論文での遷移状態構造探索は比較的簡単だったと予想されます。

化合物 4 と 5 の変換反応の TS2 ですが、TS1 から 中間体 3 を経由して直接 TS2 へと進行してしまうことは少し意外でした。また、trajectory を見ると TS2 ができる際の二箇所の C–C 結合の開裂は完全に同時に起きています。また、中間体 3 から 生成物 4, 5, TS2 が生成する時の Time-Scale はほぼ完全に一緒でした。

PTSB の論文ということで興味を持って読んでみたものの、意外にも計算しました、終わり、という感じの論文でした。。。同位体効果の部分も実験したのかと思いきや、こちらも計算でした。

今回の論文の SI は、PROGDYN の configuration file がしっかりと公開してあり、また座標もきちんと読み取れる形式になっていました。こういう SI だと非常にありがたいです。

 

管理人は、計算化学・有機化学共に素人です。記事中の内容に誤りがありましたら、コメント欄、twitter、またはメールにてご指摘いただければ幸いです。

参考文献

  1. “Dynamic Effects on the Periselectivity, Rate, Isotope Effects, and Mechanism of Cycloadditions of Ketenes with Cyclopentadiene.”
    Ussing, B. R.; Hang, C.; Singleton, D. A.
    J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 7594−7607.
  2. Molecular Dynamics of the Diels−Alder Reactions of Tetrazines with
    Alkenes and N2 Extrusions from Adducts
    Lisa Törk, Gonzalo Jimenez-Oses, Charles Doubleday, Fang Liu, and K. N. Houk
    J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 4749−4758. DOI: 10.1021/jacs.5b00014
  3. ブルバレン(有機化学美術館)

関連する記事

コメントを残す(投稿者名のみ必須)