何 kcal/mol で反応は進行するか?

計算化学が実験科学者にも普及してきた昨今、最近では反応開発などの論文にも計算化学による反応機構解析のデータが載ることが一般的になってきました。

きっと皆さんもエネルギーダイアグラムを一度は目にしたことがあると思います。どこが律速か程度は誰でも分かると思いますが、多くの人が疑問に思いつつ、こんな簡単なこと聞いていいのかなと思っているのは、「何kcal/mol 以下だと反応が進行するの?」ということだと思います。

今回の記事を読めば、エネルギーダイアグラムがより深く理解できるようになると思います。

英語版How many kcal/mol ?

速度論的解析

ズバリ、

20 kcal/mol

以下だと室温条件下で反応が進行すると言われています。人によっては25 kcal/mol 以下ということもあると思いますが、この辺りは反応系によっても変わってくるので厳密な値は決められません。とりあえず、20 kcal/mol 以下なら反応が進行すると結論づけて大丈夫です。

また、加熱すればもう少し高くても反応は反応します。しかし、30 kcal/mol を超えると反応は非常に進みにくくなります。

DFT 計算を行う上で注意しなくてはいけないのは、どの汎関数で計算が行われたか?ということです。反応の種類ごとに最適な汎関数というのは調べられています。もし、最適ではない汎関数を使うと活性化エネルギーは数 kcal/mol から 10 kcal/mol くらい平気でずれてしまいます。

どの汎関数が最適化はベンチマークを取って調べる必要があります。以下にベンチマーク関連の記事を載せておきます。

【参考】【Enthalpy】B3LYP での計算誤差について【Underestimation】

【参考】Diels-Alder 反応に最適な汎関数はどれ?

【参考】Rh/Ru を用いた σ-bond activation に適した汎関数!

反応速度の比較

次に、ある化合物から2通りの反応経路が考えられる場合について説明します。(主生成物と副生成物の比較など)

比較を行うためには、2 つの経路それぞれの活性化エネルギーを求めることが必要です。そして、2つの活性化エネルギーの差が 3 kcal/mol 以上ある場合は、片方の反応のみ優先的に進行します。

反応速度の比較を行なうためには、以下に示すEyringの式で計算を行ないます。

    \[K=\frac{k_B T}{h} e^{\frac{-\Delta G}{RT}}\]

Eyring の式で2 つの経路の反応速度を割り算すると、反応速度は  e^{\frac{\Delta G_b-\Delta G_a}{RT} 倍速いまたは遅いという数式が導けます。つまり、わざわざEyring の式を解かなくても活性化エネルギーの差を見るだけでおおよその反応速度比は見積もれます。

おおよその目安ですが、活性化エネルギーの差が X kcal/mol あったら反応速度は 10^X倍違うと考えます。例えば、活性化エネルギーの差が 5 kcal/mol あったとしたら、反応速度には 10^5 = 100000倍の差があります。約 3 kcal/mol の差で約 1000 倍の速度差なので、不斉合成などでは約 3 kcal/mol の差で 99.9% ee の選択性が出ると言われています。

熱力学的安定性

エネルギーダイグラムなどで示されている反応経路解析は、速度論的解析です。
一方、平行反応などである2つの構造を比較してどちらが安定化と議論するのは熱力学的な解析になります。

この場合は、

3.0 kcal/mol の差があると存在比が約 99:1

1.7 kcal/mol の差があると存在比が約 9:1

0.5 kcal/mol の差があると存在比が約 7:1 になると言われています。

しかし、DFT 計算のみでこのような小さな値のエネルギー比較を行うことは大変危険です。0.5 kcal/mol 程度であれば使用する汎関数に応じてエネルギーの大小が入れ替わってしまってもおかしくありません。管理人としては、DFT でのこのような細かい計算はあくまで実験値のサポートとして扱うのが良いと考えます。または、他の計算手法(CCSDT など)を用いる方が良いのではないでしょうか?

記事中に間違い等ある場合は、コメント欄、twitter またはメールにてお知らせいただけると幸いです。

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