Diels Alder 反応に代表されるように、2つ(以上)の結合が同時に生成する反応を協奏的な反応と言います。
実際には、Diels Alder 反応の2つのC–C結合の生成は同時ではなく段階的です。しかし、エネルギー的には協奏的であるため協奏的な反応と言われています。
結合生成のタイミングが同時ではないのに協奏的というと、混乱する方もいるかもしれません。協奏的な反応か、それとも段階的な反応かは何によって決まるのでしょうか?
全ての結合・状態には固有の振動数があり、lifetime が決まっております。
一般的に遷移状態(transition state)の lifetime は、60 fs (フェムトセカンド)と言われております。
Diels Alder 反応では、2つの C–C 結合生成の遷移状態の lifetime が異なります。しかし、lifetime が異なっていても協奏的な反応なのです。協奏的または段階的かを分けるのは、2 つの lifetime の差です!一般的に二つ以上の結合生成が同時に起きる反応の場合、それぞれの TS の lifetime の差が 60 fs 以下であれば、協奏的な反応ということができます。
一般的に、2 つの結合生成が起きる反応は、エネルギーと結合生成の2つの観点から次の 3 つに分類できます。
(i) Energy concerted bonding concerted
(ii) Energy concerted bonding stepwise
(iii) Energy stepwise bonding stepwise
このことは、Diels Alder マニアと言っても過言ではない、計算化学の巨匠 Kendal Houk により明らかにされました[1][2](論文中で上述の結論は述べられていないが、本人の講演などでは述べている)。
Diels Alder 反応の TS を求める際のコツ
よくありがちなミスとして協奏的な反応のTSを出す際に同時に複数の結合を形成させる TS を求めようとして、全然計算が進まない人がいます。しかし、上述したように Diels Alder 反応の結合生成は段階的に起きます。なので、段階的に結合生成させるよう TS の初期構造探索を行うことが大切です。また、周辺置換基をみれば 2 つの結合のどちらが先に生成するかは自ずと分かるはずです。
参考文献
1. Xu L., Doubleday C. E., Houk K. N., “Dynamics of 1,3-dipolar cycloadditions: Energy
partitioning of reactants and quantitation of synchronicity” J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 3029–3037. DOI: 10.1021/ja909372f
2. Black K., Liu P., Xu L., Houk K. N., “Dynamics, transition states, and timing of bond formation in Dielas-Alder reactions” Proc. Natl. Acad. Sci. 2012, 109, 12860-12865. DOI: 10.1073/pnas.1209316109
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