Theozyme 計算 〜巨大分子系の簡便な計算方法〜

近年のコンピューターの大幅な進歩により、そこそこ大きな系の反応も量子化学計算で取り扱えるようになってきました。

酵素反応などに代表される巨大分子系の計算に対しては QM/MMQM/MM MD 計算などが登場してきました。

しかしながら、input ファイルの作成が面倒であったり、計算コストが高い、QM/MM の境界面の取り扱いが困難などまだまだ直面する課題は多いです。

量子化学計算の精度で、もっと簡便に、巨大分子系を計算したい、そういう悩みの解決方法として、Theozyme 計算というものが存在します。基質のみの QM 計算と タンパクも含めた QM/MM 計算のちょうど中間に位置する計算です。

今回の記事では、Theozyme 計算について、実例を交えてご紹介したいと思います。

Theozyme とは?

Theozyme とは Theoretical Enzyme の略称です。compuzyme と呼ばれることもあります。

例えば酵素反応での Theozyme 法は、「酵素活性部位内にて基質と相互作用しているアミノ酸残基のみを取り出し、基質の周りに配置して計算する QM 計算」を意味します。

この手法には、

  1. 系全体を QM で計算できる
  2. 反応に関与しない酵素の外側部分を計算する必要がない(計算時間短縮)

などのメリットがあります。

酵素反応の QM/MM 計算の MM 部分はほとんどの場合、反応系に影響を与えない場合も多くありますので、Theozyme 計算による見積もりもかなり精度が高いです。

なんとなく不安だから、反応に直接関係ない部分も含めて酵素全体で計算したい」と思う人が多いと思いますが、反応について考える場合、その反応のエッセンスとなる部分だけ抜き出して考えれば十分です。

フラスコ内で進行する有機化学反応だって、基質の多量体を考慮することは稀ですし、溶媒分子を数百分子配位させることも不要です。

計算化学はあくまでモデルですので、反応にクリティカルに聞くところだけ切り取って計算してしまえば化学的には十分です。実際の系を完全再現しようなどと思うのは、非常に非効率的です。

C–H π 相互作用で 1,2-H shift を加速!

実際の研究例を一つ紹介します。

(上図は、以下の論文より引用)

“Theoretical Study of Sesterfisherol Biosynthesis: Computational Prediction of Key Amino Acid Residue in Terpene Synthase”
Sato, H.; Narita, K.; Minami, A.; Yamazaki, M.; Wang, C.; Suemune, H.; Nagano, S.; Tomita, T.; Oikawa, H.; Uchiyama, M. Sci. Rep.2018, 8, 2473-2481. DOI: 10.1038/s41598-018-20916-x

この論文では、カルボカチオン中間体と酵素活性部位の芳香族残基との間に C–H \pi 相互作用があるとの予想のもと、基質近傍にベンゼン環を配置した Theozyme 計算をしております。

本論文で対象としている酵素反応では、基質のみの低分子で DFT 計算を行うと、実験的には単離されていないトリキナン骨格を有する中間体が生成してしまい、計算結果と実験結果がうまく一致しなかったようです。

そこで、基質近傍に芳香環を配置した Theozyme 計算を行うと、1,2 水素移動反応が加速され、実験結果と一致する生成物が得られて来るという計算結果が得られたようです。

1.2 水素移動は、多くの人がヒドリドシフトと勘違いしていますが、実際にはプロトンシフトです。近傍に芳香環が位置すると、\pi電子によって プロトンが安定化され、活性化エネルギーが下がるようです。

本論文の著者らは、さらにホモロジーモデルをもとに Docking Simulation を行い、確かに基質近傍に芳香族性残基 (F191) があることを確認しています。

さらにこの F191 をアラニンに置換した変異酵素を作成し、確かに F191 非存在下では環化反応が最後まで進行しないことを確かめています。

まさに実験と計算が融合した画期的な研究成果ということができると思います。

ワンポイントアドバイス

基質のみの低分子の計算で B3LYP などを用いている場合でも、Theozyme 計算では弱い相互作用を見積もる必要があるため、 M06-2X が最適な汎関数として用いられることが多いです。

参考文献

  1. “Theozymes and compuzymes: theoretical models for biological catalysis”
    Dean J Tantillo, Jiangang Chen and Kendall N Houk
    Current Opinion in Chemical Biology
    Volume 2, Issue 6, 1998, Pages 743-750. DOI:10.1016/S1367-5931(98)80112-9
  2. Theozyme の解説ページ
  3. “Catalysis on the Coastline: Theozyme, Molecular Dynamics, and Free Energy Perturbation Analysis of Antibody 21D8 Catalysis of the Decarboxylation of 5-Nitro-3-Carboxybenzisoxazole,”
    J. Comp. Chem. 2002, 24, 98-110. DOI: 10.1002/jcc.10151
    Ujaque, G.; Tantillo, D. J.; Hu, Y.; Houk, K. N.; Hotta, K.; Hilvert, D.
  4. “Nonclassical Carbocations as C-H Hydrogen Bond Donors”
    J. Phys. Chem. A 2006, 110, 4810-481. DOI10.1021/jp056965s
    Bojin, M. D.; Tantillo, D. J.
  5. “How an Enzyme Might Accelerate an Intramolecular Diels-Alder Reaction – Theozymes for the Formation of Salvileucalin B”
    Org. Lett. 2010, 12, 1164-1167. DOI: 10.1021/ol9028435
    Tantillo, D. J.

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