【PTSB】Progdyn の使い方【遷移状態後枝分かれ】

最近、遷移状態後の枝分かれ反応についての報告が増えてきました。当ウェブサイトでも、これまでも PTSB (Post transition state bifurcation) に関する論文をいくつか紹介してきました。

参考:Rh の C-H 挿入反応の新知見〜遷移状態後の枝分かれ〜
参考:プメラー型反応の反応機構は実はもっと複雑?【Pummerer Type Rearrangement】

2017 年には有機合成での反応のみならず、生体内反応でも PTSB が進行することが Nature 誌に報告されていました。

“SAM-dependent Enzyme-Catalysed Pericyclic Reactions in Natural Product Biosynthesis,”
Masao Ohashi, Fang Liu, Yang Hai, Mengbin Chen, Man-cheng Tang, Zhongyue Yang, Michio Sato, Kenji Watanabe, K. N. Houk, and Yi Tang, Nature, 549, 502-506 (2017).

徐々に一般的になりつつある PTSB ですが、その計算手法については、まだあまり広まっていないと思います。そもそも、系によって有効な手法が異なるので、一概にこの手法を使えば PTSB を計算することができるとは言い切れません。

今回の記事では PTSB を求めるのに有効とされている手法の一つである、 Progdyn というソフトウェアの使い方について紹介します。

Progdyn とは?

Progdyn は ダニエル・シングルトン Daniel Singleton のグループによって開発された MD 計算ソフトです。管理人の留学先のラボの人達は、”プログダイン” のように発音していました。

枝分かれ反応を計算するとき、下図のように TS 上にたくさんの点(座標)を置き、それら全ての座標に対応する trajectory を求めます。そして、それぞれの生成物に至る trajectory の数を数えて生成物の比を求めます。

Progdyn 概念図

TS 上にたくさんの点(座標)を置くというのは、vibration mode を考慮するということです。Gauss View で各 Vibration mode を表示すると伸縮や変角などの運動が見えると思います。Vibration mode を考慮して TS 上に多数の点をプロットするというのは、簡単にいうと、微妙に結合長や結合角度が異なる TS の座標をたくさん作り出すということになります。

ちなみに、progdyn を用いて生成物の比を求める場合には、少なくとも数百 trajectory は解析するように言われました。出来ればその 5 倍、10 倍の数の trajectory を解析し、ある一定のtrajectory 数を越えると結果に差がなくなることを確認した方が良いそうです。

ダウンロード方法

Github に置いてあります。Singleton の研究室ウェブサイトには置いてありません。以下のコマンドでダウンロードして下さい。

git clone https://github.com/nwohlgemuth/ProgdynSuite.git

実際の計算方法

1. Gaussian09 で HPfreq 計算を行う。
Progdyn は、gaussian09 の freq 計算の log ファイルを input ファイルとして認識します。振動計算する座標は PTSB と予測される反応の遷移状態構造 (TS) を freq=HPmodes というキーワードを用いて計算してください(VRI の座標ではないので注意!)。

通常の freq 計算では、調和振動数固有値は 3 桁で出力されますが、HPmode で振動計算すると、調和振動数固有値が 5 桁で出力されます。

2. input ファイルを準備

progdyn の計算に必要な input ファイルを全て一つのフォルダにまとめましょう。この記事では、フォルダ名を t1 としています(trial 1 の意)。必要なファイルは以下の 9 個です。

freqinHP.log,  g09.sh,  prog1stpoint.awk,  prog2ndpoint.awk,  proganal.awk,  progdynb.awk,  progdyn.conf,  progdynstarterHP.sh,  proggenHP.awk

拡張子に .log とか .awk とか .sh とかついていますが、これらは全て削除してもらっても構いません。実際、管理人は progdyn を使うときに、これらの拡張子は削除しています。.conf のみ残しています。

それでは、以下 input file をそれぞれ編集していきます。

3. g09.sh の編集

g09.sh は、job scheduler に計算開始の指令を出すファイルです。以下に例を示します。お使いの job scheduler に合わせて改変して下さい。

#!/bin/csh
#PBS -l nodes=1:ppn=16
#PBS -l mem=8000MB
#PBS -l walltime=72:00:00

module load gaussian
mkdir scratch
~/progdyn/t1/progdynstarterHP /home/usrname/progdyn/t1 /home/usrname/progdyn/t1/scratch

4. progdyn.conf の編集

progdyn.conf計算レベル、電荷、スピン、などを設定するファイルです。例えば、計算レベルは、
method B3LYP/6-31+G(d,p)
のように設定します。

5. progdynstarterHP.sh の編集

progdynstarterHP.sh の中で、各ディレクトリの path を設定します。

6. proganal.awk の編集

proganal.awk の中で、trajectory の threshold の値を設定します。この値は、実際に少し計算してみて決めていくものであり、progdyn を使っていく上で最も時間のかかる部分です。

7. 計算を開始する

PBS 系を使っているのであれば、qsub g09.sh で計算開始です!

計算結果

計算が開始すると、dyn100, dyn101, dyn102… という新しいファイルが生成していきます。また、traj100, traj101, traj102… というファイルも生成していきます。

計算にはとても長い時間がかかります。というのも、とてつもない数の DFT 計算をしているので、、、。

スーパーコンピューターで計算している方は、wall time 内だとおそらく 3 つくらいしか trajectory が得られないと思います(もちろん系の大きさと計算レベルにも依存します)。

そのため、何度も計算を再投入する必要があります。再投入の仕方は、qsub g09.sh コマンドを再度実行するだけです。

もし wall time が 72 時間であれば、72 時間おきに qsub g09.sh が自動的に実行されるように設定しておくと楽かもしれません。

結果の解析方法は、別記事にまとめます。

参考文献

“Dynamic Effects on the Periselectivity, Rate, Isotope Effects,
and Mechanism of Cycloadditions of Ketenes with
Cyclopentadiene”
Ussing, B. R.; Hang, C.; Singleton, D. A. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 7594–7607, doi:10.1021/ja0606024.

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