2020年04月前半 kwh_rd100の注目論文BEST3

計算化学.comスタッフの kwh_rd100 です。各種の計算ソフト群をツールと割り切って使う立場から、2020年 04月前半の注目論文 BEST3 を紹介させて頂きます。

1)Driving Torsion Scans with Wavefront Propagation
(波面伝搬によるねじれスキャンの駆動)
https://doi.org/10.26434/chemrxiv.12044673.v1  

2)Acknowledging user requirements for accuracy in computational chemistry benchmarks
(計算化学のベンチマークでの正確さに関するユーザー要件の確認)
https://arxiv.org/abs/2004.00297

3)NMR-TS: de novo molecule identification from NMR spectra
(NMR-TS:NMRスペクトルからのde Novo分子同定)
https://doi.org/10.26434/chemrxiv.12057900.v1

202004-前半 注目論文①

1)Driving Torsion Scans with Wavefront Propagation
(波面伝搬によるねじれスキャンの駆動)
https://doi.org/10.26434/chemrxiv.12044673.v1 

[エグゼクティブサマリー]
 従来のスキャニングアプローチの欠点を解消するため、再帰的な波面伝播を用いて、ねじり制約のグリッド上にエネルギーを最小化した構造物を生成するためのTorsionDriveと呼ばれる体系的で汎用性の高いワークフローを開発した。既存の量子力学ソフトウェアパッケージのエネルギー最小化コードの互換性を有し、PyBernieやPyOptKingなどのオープンソースのソフトウェアパッケージで実装されている。

[kwh_rd100のコメント]
 得られるポテンシャルエネルギー面(PES)は、複数の初期推定を自然に組み込むことができ、高エネルギーの局所最小値に引っかかる傾向が減り、困難なシステムや一般化された二面体角の選択に対する性能と信頼性が向上する。論文サポート情報(SI)に、TorsionDrive計算のための入力データと計算結果が明示されており、追試も容易。

202004-前半 注目論文②

2)Acknowledging user requirements for accuracy in computational chemistry benchmarks
(計算化学のベンチマークでの正確さに関するユーザー要件の確認)
https://arxiv.org/abs/2004.00297

[エグゼクティブサマリー]
 ベンチマークデータは非常に有用だけれども、平均絶対誤差のような通常の尺度では不十分。信頼性の高い参照データを用い、生データの処理に使用されたモデルからの誤差等のエラーバーが明示されるべき。密度汎関数近似で計算されたバンドギャップ(参考文献[7],https://arxiv.org/abs/2003.01572)を具体例として、議論を展開している。

Figure 2. Calculated minus experimental band gap (LDA black points, HSE06 red points) for the 471 systems of
the benchmark of Borlido et al.[2](https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jctc.9b00322). Centered errors.

[kwh_rd100のコメント] 
 計算化学が実験データを補完する役割を果たす重要なツールとなって久しい。適用した計算化学手法の妥当性を示すために、ベンチマークデータセットを使用して、平均絶対誤差などの数値を提示することが一般的になされている。しかし、計算化学が実験データを補完する際には、ベンチマークデータのより慎重な調査が必要であって、実験条件に関する一定レベル以上の理解が、適切な計算方法の選択の前提になっていることを忘れてはならない。滋味深い論文。

202004-前半 注目論文③

3)ANMR-TS: de novo molecule identification from NMR spectra
(NMR-TS:NMRスペクトルからのde Novo分子同定)
https://doi.org/10.26434/chemrxiv.12057900.v1

[エグゼクティブサマリー]
NMRスペクトルから任意の分子を自動的に識別する機械学習ベースのPythonライブラリ。1H NMRスペクトルに加えて、13C NMR、IR、UV-visスペクトルなど、他の多くの分光測定からのデータを入力として使用可能。計算量の多いDFT計算は原則不要
実装(一部制限あり):https://github.com/tsudalab/NMR-TS

[kwh_rd100のコメント]
 NMR-TSの凄さは、第1に、1H NMRスペクトルからベースラインと同等以下の情報で、より良い分子構造を識別していること、第2に、ターゲット分子の構造が参照データベースに含まれていないにもかかわらず、(化学者の助けは借りずに)データベース情報から正解分子に到達していることにある。
 近い将来、複数の分子のスペクトルから個々の分子を同定できたとき、ロボット合成システム等における生成物の同定への採用が一気に進むと思われる。次報以降にも注目したい。

さいごに

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