計算化学.comスタッフの kwh_rd100 です。各種の計算ソフト群をツールと割り切って使う立場から、2020年 11月前半の注目論文 BEST3 を紹介させて頂きます。
1)Generating 3D Molecular Structures Conditional on a Receptor Binding Site
with Deep Generative Models
(深層生成モデルによる受容体結合部位の条件付き3D分子構造の生成)
https://arxiv.org/abs/2010.14442
2)Machine learning of solvent effects on molecular spectra and reactions
(分子スペクトルと反応に対する溶媒効果の機械学習)
https://arxiv.org/abs/2010.14942
3)Molecular simulation of thermosetting polymer hardening: reactive events enabled
by controlled topology transfer
(熱硬化性ポリマー硬化の分子シミュレーション:制御されたトポロジー伝達によって可能になる反応性イベント)
https://arxiv.org/abs/2011.02820
目次
202011-前半 注目論文①
1)Generating 3D Molecular Structures Conditional on a Receptor Binding Site
with Deep Generative Models
(深層生成モデルによる受容体結合部位の条件付き3D分子構造の生成)
https://arxiv.org/abs/2010.14442
[エグゼクティブサマリー]
リガンド空間をレファレンスシード化合物の近くでのサンプリングと、原子密度グリッド上での学習に、3次元結合部位を条件としたVAE(variational autoencoder)とGAN(Generative Adversarial Networks)を適用して、良好な結合親和性と大きさを有する新規構造の生成に成功した。


[kwh_rd100のコメント]
条件付き VAE を用いた分子生成モデルはいくつか開発されてはいるものの、いずれもリガンドの性質を条件としており、結合部位の構造が考慮されていない。このアプローチでは、異なる空間分解能での受容体情報のデコーダへの伝搬を通じて、ネットワークアーキテクチャの中で受容体の重要性が強調され、有効な分子生成率が平均80%以上と高効率であり、魅力的である。
202011-前半 注目論文②
2)Machine learning of solvent effects on molecular spectra and reactions
(分子スペクトルと反応に対する溶媒効果の機械学習)
https://arxiv.org/abs/2010.14942
[エグゼクティブサマリー]
分子環境との相互作用をベクトル場の形でモデル化することで、分子環境との相互作用を物理的なインターフェースとして、暗黙的・明示的に記述した深層学習フレームワークFieldSchNetの提案。ML/MM化により、最大4桁の高速化を実現。アリル-p-トリルエーテルのクライセン転位反応における溶媒効果で実証。


[kwh_rd100のコメント]
FieldSchNetは、溶液中の分子の分光学的特性の予測のみならず、触媒環境の逆化学的設計まで原理的には拡張可能。QM/MMで明示的な外部電荷、あるいは溶媒和のための偏光連続体モデルによって生成された静電場と相互作用するために使用できることから、今後の適用事例の蓄積が待ち遠しい。
202011-前半 注目論文③
3)Molecular simulation of thermosetting polymer hardening: reactive events enabled
by controlled topology transfer
(熱硬化性ポリマー硬化の分子シミュレーション:制御されたトポロジー伝達によって可能になる反応性イベント)
https://arxiv.org/abs/2011.02820
[エグゼクティブサマリー]
モンテカルロ選択基準を用いて反応試行を制御し、分子再編成(エポキシ分子のアミン硬化)を容易にするために、トポロジー切り替えと捉えて、対応するMMの力とエネルギーを混合することでスムーズ化した。これにより、QM/MMベースのモンテカルロ評価の精度を維持しつつ、ネットワークの緩和を促進し、硬化過程の効率的なシミュレーションを実現した。



[kwh_rd100のコメント]
実質的な分子再編成を伴う化学反応を扱える量子力学/分子力学(QM/MM)手法であり、反応物状態から生成物状態への分子再編成において、滑らかなトポロジー伝達スキームを用い、psスケールの分子動力学シミュレーションを行うことで、ポリマーネットワークの緩和を利用して、より現実的な生成物につなげるという発想が素晴らしい。
さいごに
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