計算化学.comスタッフの kwh_rd100 です。各種の計算ソフト群をツールと割り切って使う立場から、2020年 11月後半の注目論文 BEST3 を紹介させて頂きます。
1)A Feasible Approach for Automatically Differentiable Unitary Coupled-
Cluster on Quantum Computers
(量子コンピューター上で自動的に微分可能なユニタリー結合クラスターのための実行可能なアプローチ)
https://arxiv.org/abs/2011.05938
2)Lipophilicity Prediction with Multitask Learning and Molecular Substructures Representation
(マルチタスク学習と分子下位構造表現による親油性予測)
https://arxiv.org/abs/2011.12117
3)SYMMETRY-AWARE ACTOR-CRITIC FOR 3D MOLECULAR DESIGN
(対称性を意識したACTOR-CRITIC法による3D分子設計)
https://arxiv.org/abs/2011.12747
目次
202011-後半 注目論文①
1)A Feasible Approach for Automatically Differentiable Unitary Coupled-
Cluster on Quantum Computers
(量子コンピューター上で自動的に微分可能なユニタリー結合クラスターのための実行可能なアプローチ)
https://arxiv.org/abs/2011.05938
[エグゼクティブサマリー]
量子ビットマッピングに依存せず、一般的なn倍のフェルミオン励起作用素の解析的グラジエントを評価できる技術を開発した。計算コストは標準的な手法より低く、基底状態のみならず、励起状態の最適化にも対応。自動微分フレームワークを有するOSS(tequila)に実装済。


[kwh_rd100のコメント]
量子コンピュータ上で量子化学向けアプローチを容易にテストできる、単一結合クラスター型演算子用のエンコーディングの独立した勾配評価手法は、計算上手頃な手法でもあり、開発意義は大きい。基底状態および励起状態の最適化結果についてのデータ蓄積が期待できる。
202011-後半 注目論文②
2)Lipophilicity Prediction with Multitask Learning and Molecular Substructures Representation
(マルチタスク学習と分子下位構造表現による親油性予測)
https://arxiv.org/abs/2011.12117
[エグゼクティブサマリー]
分子グラフの部分構造表現に、ダイレクトメッセージパッシングニューラルネットワーク(D-MPNN)を導入したStructGNNの開発。logP値とlogD値の同時予測(マルチタスク学習)がlogP値あるいはlogD値の単独予測よりも高精度であり、対称分子でも性能低下しない。実装あり。https://github.com/jbr-ai-labs/lipophilicity-prediction


[kwh_rd100のコメント]
分子の下位構造を抽出することにより、追加のグラフ情報をエンコードするアプローチはユニークで素晴らしい。対称分子でも性能低下しない理由やlogP値とlogD値の同時予測(マルチタスク学習)が良好な結果をもたらす理論的な背景が明確になることも期待したい。
202011-後半 注目論文③
3)SYMMETRY-AWARE ACTOR-CRITIC FOR 3D MOLECULAR DESIGN
(対称性を意識したACTOR-CRITIC法による3D分子設計)
https://arxiv.org/abs/2011.12747
[エグゼクティブサマリー]
3Dで高度に対称的な分子を設計するための球状高調波に基づいた深層強化学習アプローチを開発した。TD誤差学習の手法の一つであるACTOR-CRITIC法(行動選択と状態評価は独立。行動選択に最小限の計算量で済む&確率的な行動選択を学習できるメリットあり)を用いて、望ましい自動退行ポリシーにかかる対称性操作を明示的にコード化して実現させた。


[kwh_rd100のコメント]
深層強化学習(RL)を使用した分子設計の自動化は、新しい材料の検索が大幅に加速できるので、従来法よりも複雑な配位幾何学を持つ分子構造を3D生成できる魅力は大である。ドラッグデザインなどを含め、様々な用途に特化した報酬関数の設計完了が待ち遠しい。
さいごに
読者各位の計算化学ライフの更なる充実に少しでも貢献できれば嬉しいです。 記事中に間違い等ある場合は、コメント欄、twitter またはメールにてお知らせいただけると助かります。また、このような話題を取り上げて欲しいなどのリクエストも大歓迎です。可能な限り、前向きに対応致します。