計算化学.comスタッフの kwh_rd100 です。各種の計算ソフト群をツールと割り切って使う立場から、2021年09月前半の注目論文 BEST3 を紹介させて頂きます。
1)Deep learning for industrial processes:Forecasting amine emissions from a carbon capture plant
(産業プロセスの深層学習:炭素回収プラントからのアミン排出量の予測)
https://arxiv.org/abs/2107.14664
2)Bayesian phase difference estimation: a general quantum algorithm for the direct calculation of energy gaps
(ベイズ位相差推定:エネルギーギャップを直接計算するための一般的な量子アルゴリズム)
https://doi.org/10.1039/D1CP03156B
3)Inverse design of 3d molecular structures with conditional generative neural networks
(条件付き生成ニューラルネットワークを使用した3D分子構造の逆設計)
https://arxiv.org/abs/2109.04824
目次
2021年09月-前半 注目論文①
1)Deep learning for industrial processes:Forecasting amine emissions from a carbon capture plant
(産業プロセスの深層学習:炭素回収プラントからのアミン排出量の予測)
https://arxiv.org/abs/2107.14664
[エグゼクティブサマリー]
データを能動学習モデルに投入し、プロセスとデータからの排出量の間のマッピングを学習させる深層学習モデルの構築手法の提案。単なる排出量予測だけではなく、プラントの定常状態から遠く離れた運転の変化が排出量にどのように影響するかの理解、すなわち、どのパラメータが排出量削減の鍵を握るかについての洞察も可能。

[kwh_rd100のコメント]
従来のプロセスモデリング手法が苦手としている、データの完全な動的、多変量、および非線形な性質の理解に貢献できることが素晴らしい。プラントのスタートアップや新しい運転体制への変更時において収集したデータを余すところなく活用できるから、プラント通常運転開始までの時間を大幅に短縮できるのが魅力である。
2021年09月-前半 注目論文②
2)Bayesian phase difference estimation: a general quantum algorithm
for the direct calculation of energy gaps
(ベイズ位相差推定:エネルギーギャップを直接計算するための一般的な量子アルゴリズム)
https://doi.org/10.1039/D1CP03156B
[エグゼクティブサマリー]
量子コンピュータが量子位相推定(QPE)アルゴリズムを利用した、完全な配置間相互作用(full-CI)計算を実行できることを用いて、原子・分子の任意のエネルギー差を直接計算できるベイジアン位相差推定(BPDE)の提案。一重項などのエネルギーギャップの直接計算にて性能実証した。


[kwh_rd100のコメント]
単一演算子の2つの固有位相の差を計算できるBPDEは、推定QPEアルゴリズムに必要な時間発展操作がなく、ベイズ最適化の計算コスト削減とともに実装の難易度が下がっていることが魅力的である。論文著者によると、BPDEアルゴリズムは、他のユニタリ作用素にも適用できるとのなので、量子化学計算以外の化学問題への適用事例の蓄積に期待したい。
2021年09月-前半 注目論文③
3)Inverse design of 3d molecular structures with conditional generative neural networks
(条件付き生成ニューラルネットワークを使用した3D分子構造の逆設計)
https://arxiv.org/abs/2109.04824
[エグゼクティブサマリー]
G-SchNetをベースとした、参照可能なデータがまばらなドメインであっても、指定された構造的および化学的特性を持つ3D分子構造を生成できるcG-SchNetの提案。サンプリングプロセス再学習等は不要ながら、多目的最適化が可能。有機分子(QM9)のHOMO-LUMOギャップで性能実証した。


[kwh_rd100のコメント]
複数特性を一度に対象とすることで、化合物空間を効率的に探索する発想を実現している。参照可能なデータが乏しくても、多様な条件に適応した新規分子等の生成ができることがありがたい。有機分子のHOMO-LUMOギャップ以外の適用にも期待が集まる。実装の公開も待ち遠しい。
さいごに
読者各位の計算化学ライフの更なる充実に少しでも貢献できれば嬉しいです。 記事中に間違い等ある場合は、コメント欄、twitter またはメールにてお知らせいただけると助かります。また、このような話題を取り上げて欲しいなどのリクエストも大歓迎です。可能な限り、前向きに対応致します。