研究者であれば、誰でも論文を添付ファイルとしてメールで送ったり、受け取ったりした経験があるのではないでしょうか?
ボスから新着文献が送られてくることもあれば、共同研究者に参考文献を送ることもあります。
また、購読できる雑誌数が少ない地方大学の知り合いに頼まれて、論文をダウンロードして送ってあげるなんて人もいるかと思います。
ここで気なるのが論文の著作権です。
自身が所属している研究機関で購読できない論文を、他の研究機関に所属する知り合いにダウンロードして送ってもらうことって、sci-hub などで違法に論文をダウンロードするのと同じなのでは?
お願いしている相手が、知り合いなのか sci-hub なのかという違いしかありません。
では、自分も相手も論文の購読権を持つ場合、例えば自分の所属研究グループ内で論文を送り合うのはどうなのでしょうか?
論文のシェアに関しては、どの辺までがセーフかはっきりしません。
そこで、今回の記事では論文の著作権について簡単に調べる方法をまとめてみました。
原稿の版、雑誌社によって規約が異なる
著作権の取り扱いについては雑誌ごとに異なりますが、一定の条件下での論文のシェアを認めているところが多いです。(ここで言うシェアとは、個人や研究室の HP や研究機関の website、pre-print server に upload することを意味します。)
非常に重要なのは、どの段階の原稿か?という部分です。
原稿の種類には、Author’s Pre-print、Author’s Post-print、Publisher’s Print の3つの版があります。
Author’s Pre-print は pre-refereeing (revise 前の原稿)、つまり最初にジャーナルに submit した原稿を指します。Author’s Post-print は revise 後の最終投稿版の原稿、Publisher’s Print は Editorial Office によって校正され、実際に出版された原稿をそれぞれ指します。
Publisher’s Print (ジャーナル HP からダウンロードする pdf)はほとんどの有料購読誌ではシェアが原則禁止となっています。しかし、Scientific Reports などをはじめとする Open Access 誌では、Publisher’s Print もシェアして良いことになっています。(まぁ、当然ですよね。もしもこれ禁止されていたら Open Access 誌に高いお金払う意味ないですよね!)
一方で、Author’s Post-print は、一定期間経過すればシェアしても良いという条件付きの場合が多いです。どの程度の期間かというのは、Nature 誌は 6 ヶ月、Angew は 12 ヶ月など、ジャーナルによってまちまちです。Author’s Post-print は、revise 後の原稿です。
Author’s Pre-print のシェアは、原則認められている場合がほとんどです。
しかし、JACS 誌などの一部のジャーナルは規約が厳しいです。Author’s Pre-print をシェアする場合でも Editor に許可を取る必要がありますし、Author’s Post-print をシェアする場合はお金を払えと書いてあります。
こんなに JACS の規約が厳しいのは、チーフエディターが頭おかしいから?
参考:JACS の Editor Reject を一単語で表現する
規約の調べ方
さて、各雑誌の規約に従いさえすれば、条件付きで論文のシェアが可能ということが分かりました。では、どのようにしてその規約を調べれば良いのでしょうか?
各ジャーナルの規約を個別に検索するのは面倒ですが、現在は便利なサイトが存在しています。SHERPA/ROMEO というサイトには、全ての学術雑誌の規約がまとまっており、簡単に検索できるようになっています。
上の検索ウィンドウで雑誌名を入力し検索すると、下のように個別のページに移動します。今回は、例として Angew を検索してみました。
それぞれ Author’s Pre-print、Author’s Post-print、Publisher’s Print の取り扱いについて書いてあります。
結局メールで送っても良いの?
最終版の論文をメールで送ることは認められていません。もし送るのであれば、Open Access の論文か Author’s Pre-print にした方が無難です。また、これも雑誌ごとに規約が違うので、個別に確認した方が良いです。
でも、そんなこと気にしていたら仕事進みませんよね?
Researchgate や sci-hub のように公に論文シェアする仕組みは問題はあると思いますが、個人的にメールでやり取りするのを認めてもらわないと仕事進みません。多少違法であっても、自己責任でやるしかないですね。
ちなみに、管理人がアメリカにいた時のボスは、興味深い新着文献があった時は、その論文にアクセスするための URL をメールで送ってきました。PDF を添付してきたことは一度も無いので、著作権にはそれなりに気を使っていたのかなぁ?と今振り返ってみて思いました。
PDF の添付はやばそうなので、URL を送るのが一番無難だと思います。また、自身のウェブサイトには論文をアップロードせず、PDF のダウンロードリンクを貼っておくのが無難だと思います。Ken Houk のサイトは、PDF のリンクが貼ってあります。
記事中にもし間違いなどがあった場合は、コメント欄もしくはメールにて教えてください。