過酸化水素の O–O 結合のホモリティックな開裂についての論文が出ましたので、簡単に紹介したいと思います。
“O–O Bond Homolysis in Hydrogen Peroxide”
Lakshmanan Sandhiya and Hendrik Zipse, J. Comput. Chem. in press. DOI: 10.1002/jcc.24870
概要
本論文では、ハイブリッド汎関数(B3LYP、M06-2X)、ダブルハイブリッド汎関数(B2-PLYP)、カップルドクラスター CCSD(T) 、多参照摂動 CASPT2 法の4つの概念的に異なるタイプの計算方法を用いて、過酸化水素(
内容
計算手法
まずは、(U)B3LYP/cc-pVxZ (x 5 D, T, Q, and 5) を用いて構造最適化が行われました。
基底関数系の影響を調べるために、よく使われる Pople 系基底関数 である 6-31G(d) や 6-311+G(2df,2p) も用いて計算が行われました。これまで行われきた過酸化水素の先行研究では Pople 系基底関数が用いられていました。また、最近の研究では Minnesota 汎関数も用いられているため、(U)M06-2X と前述の基底関数との組み合わせについても精査されました。
mixed GGA/perturbation theory approach で計算された相関エネルギーが、開裂反応にどのように影響を与えるのかについては、(U)B2-PLYP/cc-pVTZ で計算したあたいとの比較により、調べられました。
これらの計算結果は、”gold standard” として用いられている (U)CCSD(T)/cc-pVTZ と比較により評価されました。
後半部分の エネルギーの取り扱いが適切かどうか調べるために、O-O 結合の開裂により生じる ビラジカル中間体については CASPT2、cc-pVTZ 基底関数の組み合わせで (2,2) と (6,4) の active spaces での構造最適化も検討されました。
DFT 計算は Gaussian 09 で、CASPT2 計算は MOLPRO を用いて行われたようです。
内容
今回の論文では、ラジカル中間体がダイマー構造を取る方が約 3-4 kcal/mol 安定だと述べられています。このような complex の計算を行う際には、それぞれのモノマーを一点計算した値と complex の状態のエネルギーを比較することにより、大まかに相互作用を見積もることができます。
ヒドロキシラジカルと水のそれぞれの 2 量体構造での水素結合の強さは、近いようです。
また、相互作用を更に詳細に考慮する際には、論文中でも述べられているように、BSSE (基底関数重なり誤差)を考慮しなくてはいけません。gaussian では、Counterpoise というキーワードを指定すると、簡単に計算することができます。Counterpoise 法の input の書き方、log ファイルの読み方については、後々紹介していきたいと思います。
はー、最近忙しい。ゆっくりプログラミングしたり、論文読んだりする時間が取れない。
記事中に間違い等ある場合は、コメント欄、twitter またはメールにてお知らせいただけると幸いです。
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View Comments (2)
過酸化水素がO2O2となっています。原論文上の間違いかもしれませんが。
ご指摘ありがとうございます。
編集画面では Latex で入力しているため、パッと見で間違いに気づきませんでした。
今後とも間違い等発見しましたら、気軽にご指摘ください。