プロパギルアミンと二酸化炭素を基質とした銀触媒による 5/6 員環形成反応の選択性に関する計算

JOC にプロパギルアミンと二酸化炭素を基質とした銀触媒による 5/6 員環形成反応の選択性に関する論文が出ていたので、簡単に紹介します。

概要


本論文では、Ag(I) 触媒によって触媒されるプロパルギルアミンと二酸化炭素の反応メカニズムが DFT 計算により明らかにされました。この反応には分子内閉環反応に分岐点があります。5員環と6員環生成物の両方の可能性があり、regioselectivity がどのように制御されているかが非常に興味深いポイントです。本論文の計算により、regioselectivity はリガンドの配位数および塩基性に依存することが明らかとなりました。より配位数が大きく塩基性の強いリガンドは、5 員環形成反応の遷移状態を安定化する事が明らかとなりました。さらに、エネルギー分解法を用いて、その要因が調べられました。本論文の結果は、選択性の高い貴金属/有機塩基複合触媒の合理的な設計に貢献すると考えられています。

計算手法

すべての計算は、 汎関数を用いて行われました。基底関数系としては、Ag には SDD が、N,S,O には 6-311+G(d) が、C,H には 6-31G(d,p) が用いられました。
また、DMSO, DMF, DMA, THF, MeCN, MeOH などの溶媒効果を用いるために、polarizable continuum model (IEFPCM) が用いられました。電荷解析には、NBO 計算が用いられました。
エントロピーの overestimation を避けるために、2:1 (or 1:2) 変換した後に、−2.6 (or +2.6) kcal/mol の補正が行われています。

内容


この反応の元論文は、参考文献 1,2 の論文。

詳しくは、論文中の FIgure1 と FIgure3 を比べてほしいのですが、Ag へのリガンドの配位数により、regio selectivity に差が出ます。
DBU が Ag(I) に一つ配位した状態だと 5 員環と形成は 6 員環形成に比べてわずかに 0.7 kcal/mol 有利なだけです。一方で、 を用いて DBU が 3 つ配位した状態だと、活性化エネルギーの差は 3.4 kcal/mol になります。

このことは、エネルギー分解法により詳しく解析され、遷移状態の安定性はリガンドの塩基性に相関していることがわかりました(論文中 table 1)。

= + + + +
d: dissociation, s: strain, int: interaction

その結果、DBU が 3 配位している場合、 が顕著に低下していることがわかりました。
6 員環形成反応において、 が非常に低下する理由ははっきりとはわからないが、リガンドの電子供与性が関係しているのではないかと述べられています。

また、DBU が 1 配位の時、溶媒分子が Ag に配位する可能性があるため、それぞれの溶媒がリガンドとして配位した場合についても調べられています(論文中 table 2)。

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参考文献

Kikuchi, S.; Yoshida, S.; Sugawara, Y.; Yamada, W.; Cheng, H.-M.; Fukui, K.; Sekine, K.; Iwakura, I.; Ikeno, T.; Yamada. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2011, 84, 698−717.

Ishida, T.; Kobayashi, R.; Yamada, T. Org. Lett. 2014, 16, 2430−2433.

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