Josef Michl のグループの Singlet Fission の計算に関する論文が発表されましたので、少し紹介します。
“Development of a TDDFT-Based Protocol with Local Hybrid Functionals for the Screening of Potential Singlet Fission Chromophores”
Robin Grotjahn, Toni M. Maier, Josef Michl, Martin Kaupp
J. Chem. Theory Comput. 2017, 13, 4984–4996. DOI: 10.1021/acs.jctc.7b00699
概要
singlet fission に適した発色団は、それらの 、、および (および )電子状態の相対エネルギーに関する特定の要件を満たす必要があります。従って、対応するエネルギー差の正確な量子化学計算は、材料設計にとって非常に重要です。密度汎関数理論(DFT)に基づく方法は、より洗練された post HF 法と比較して、より大きく、しばしばより関連性の高いシステムに適用可能であるという利点を有します。しかしながら、ほとんどの交換相関汎関数は、特に 状態の精度が不十分です。今回の論文では、位置依存的な exact-exchange admixture を用いた local hybrid 汎関数に重点を置きつつ、DFT に基づく広範な方法を評価するために、最近の singlet fission 発色団試験セット(Wen, J.; Havlas, Z.; Michl, J. J.Am.Chem.Soc. 2015, 137, 165-172.)を用いました。テストセットのための新しい CC2/CBS 基準励起エネルギーを作成しました。これは以前の CASPT2 ベースのデータよりも全体的に良好な精度です。これらの CC2 reference data は、full linear-response TDDFT、Tamm-Dancoff 近似(TDA)、および ΔSCF 計算を比較して、幅広い機能を評価するために使用されています。2 つの単純な 2 パラメータの local hybrid 汎関数とより経験的な M06-2X 汎関数が、全体として最も良い精度を示しました。Lh12ct-SsifPW92 local hybrid 汎関数は、経験則が少なく適用範囲が広いため、一重項分裂発色団における関連する励起エネルギーの予測のための効率的な計算プロトコルに最適と思われます。 、、および 励起の完全な TDDFT は、 励起のために ΔSCF と組み合わされる。適切な DFT 最適化構造による誤差補正を利用すると、最も重要な 励起でさえも、0.20 eV の目標精度に近づけることができ、他の励起エネルギーにおいてはさらに正確に得られます。今回の論文での完全な DFT ベースの計算プロトコルは、singlet fission の分野において有用なツールになると思われます。
計算レベル
特に明記されていない場合は、Michl らの 2015 年の JACS (参考文献 1)のCASPT2/ANO-S-VDZP で計算した座標が用いられています。これらに加えて、基底状態の座標は TPSS, TPSSh, B3LYP, PBE0, BLYP35 などの汎関数と def2-TZVP 基底関数で構造最適化された座標も用いられています。
Grimme’s DFT-D3 分散力補正の影響についても B3LYP を用いた場合について検討されましたが、構造最適化した際に無視できない差が生じたので、今回の論文ではこれ以上の検討をしなかったと述べられております。
その他、評価方法などについても書いてありますが、省略。
内容
singlet fission は日本語では、一重項分裂と言います。一重項励起状態が二つの三重項状態に変換されるスピン許容プロセスのことを指します。今回の著者の Josef Michl は、一重項分裂の分野を牽引している研究者です。これ以外にも多くの分野で顕著な成果を収めている研究者なのですが、残念ながら日本での知名度はあまり高くないような気がしています。。。
昔、JACS 一冊全て Michl の論文って時もあったくらいアクティビティも高いです。国際量子分子科学アカデミーの現在の会長でもあります。
太陽電池などへの応用が期待されている singlet fission ですが、精度高く計算できるようになれば、分子設計も楽になりますよね!
記事中に間違い等ある場合は、コメント欄、twitter またはメールにてお知らせいただけると幸いです。
参考文献
“Captodatively Stabilized Biradicaloids as Chromophores for Singlet Fission.” Wen, J.; Havlas, Z.; Michl, J., J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 165−172. DOI: 10.1021/ja5070476
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