Google 72-Qubit チップによる量子超越性を目指す

(トップ画像は、Google が発表した新量子プロセッサ “Bristlecone” 、こちらのページより転載しました。)

Google から新量子プロセッサー Bristlecone が発表されました。72 量子ビットを持つことから、量子超越性 (Quantum Supremacy) を実現できるのでは無いかと期待されています。

TOP500 の NEWS 欄には、毎週スーパーコンピューターに関する最新情報が報告されています。残念ながら、日本のメディアではほとんど報道されません。
本ウェブサイトでは、それらのニュースを定期的に日本語で紹介していきます。

今回紹介する記事は、
“Google Takes Aim at Quantum Supremacy with 72-Qubit Chip”
March 6, 2018

概要

Google の量子人工知能研究所 (Quantum AI Lab) は、量子超越性を実現する最初の企業になるために、72 量子ビットのプロセッサをテストしていることを明らかにしました。

Bristlecone と呼ばれるこのチップは、ロサンゼルスで開催された American Physical Society の年会で月曜日 (2018/3/5) に公開されました。 特定の計算タスクで最大のスーパーコンピュータよりも優れている量子コンピュータの能力である量子超越性を実証するためには、49 または 50 量子ビットしか必要でないことを考えると、72 量子ビットのプロセッサはそのようなマイルストーンを達成するのに十分なはずです。 しかしながら、そのようなシステムのエラー率は、実用に耐えられるほど十分に低くなければなりません。 さらに、量子超越性のためにシステムをテストするのは、古典的なコンピュータがテスト結果を比較するのに使用できないという事実によって困難ものになっています。

今週のアメリカ物理学会で Bristlecone を発表した Quantum AI Lab の研究者である Julian Kelly 氏は、Google Research のブログで進捗状況について説明しました。 彼の記事では、新しいチップを「量子ビットシミュレーション技術のシステムエラー率とスケーラビリティ、量子シミュレーション、最適化、機械学習のアプリケーションの研究のためのテストベッド」として特徴付けました。

Kelly 氏によると、Bristlecone は以前の 9 量子ビットプロセッサで採用されているものと同じ coupling、control そして readout scheme を採用していますが、linear array design の代わりに、72 量子ビットの正方形アレイを採用しました。 今回の研究の目的は、9 量子ビットのハードウェアと同等のエラー率でより大きなチップを得ることです。読み出しでは 1 %、シングル量子ビットでは 0.1 %、2 量子ビットでは 0.6 %のエラー率です。 「Bristleconeは、大規模な量子コンピュータを構築するための強力な原理証明となるでっしゃろ」と Kelly 氏は述べています。

しかし、エラー率が低いことを示すには新しいチップでいくつかのテストを実行するだけでは不十分です。 システムソフトウェア、制御エレクトロニクス、チップ自体を含めて、テクノロジースタック全体を調整する必要があります。 ケリー氏によると、72 量子ビットのプロセッサーのためにこれらのすべてのデータを整理するには、慎重なエンジニアリングと多くの反復テストが必要になるという。

このような調整には数ヶ月かかる可能性があるので、Google がすぐに突破口を発表するとは思いまへんでおくんなはれ。と述べているにも関わらず、Kelly 氏はある時点で Bristlecone の量子超越性を実証できると楽観しています。「量子コンピューターがスーパーコンピュータより優れとるちうことを実証できたら、それはうちらの分野において特筆すべき瞬間であるんやし、それを目標にして取り組んでいまんねんわ。」

感想

量子超越性 (Quantum Supremacy) とは、量子コンピュータが従来型のコンピュータでは実現不可能な計算能力を備えていることを示すものです。カリフォルニア工科大学の John Preskill 教授により提唱された概念です。

以前は、量子ビットのエラー訂正ができる「ユニバーサル量子コンピュータ」でなければ、量子超越性は実現できないと考えられてきました。しかし最近、量子ビットの数が少なくエラー訂正もできない量子コンピュータであっても、ある程度の数の量子ビットがあれば特定のアルゴリズムにおいて量子超越性が示せることが分かってきたそうです。そして、Google が設定した量子超越性に必要となる量子ビット数は 49 個でした(参考文献 2)。

今回 Google が発表した Bristlecone の量子ビット数は 72 個です。

しかし、Google が量子超越性を実現できるかどうかはまだわかりません。Google や IBM は少ない量子ビット数でも実現可能と言っていますが、John Preskill 教授は 100 以下の量子ビット数では不可能と言っています。これから行われるテストの結果に期待です。

計算化学の観点では、量子コンピューターが実用化されれば Schrödinger 方程式をより早くより厳密に解くことができると期待されています。Google はこのことを視野に入れて、昨年 10 月に Open Fermion というページを立ち上げ、量子コンピューター用の量子化学計算プログラムの開発に向けて既に動いています。

参考記事Google も計算化学に参入? Open Fermion
参考記事量子コンピュータで計算化学!?

Google の量子人工知能研究所の Masoud Mohseni 氏は Q2B Conference の講演で、2028年までに10 万量子ビットを搭載したエラー訂正が可能な量子コンピュータを実現するというロードマップを示しました。

早く量子コンピューターで手軽に量子化学計算ができる時代になってほしいですね!

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参考文献

  1. 量子コンピューター「9000兆倍の破壊力」
  2. 「量子超越性」に突き進むGoogleの野望
  3. グーグルが量子超越性の実現にめど、数カ月内に実証も
  4. グーグルの新量子プロセッサ「Bristlecone」、72量子ビットで量子超越性に挑む
  5. GoogleのBristleconeプロセッサーは同社を量子超越性へ一歩近づけた
  6. 【IT】グーグルの新量子プロセッサ「Bristlecone」、72量子ビットで量子超越性に挑む[03/06]

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