学術振興会の特別研究員には、給料や科研費とは別に研究遂行経費という予算が認められています。
これは、給料(研究奨励金)の約3割を非課税で研究を遂行するのに必要な経費として計上できると言うものです。
DC の場合 72 万円/年、PD だと約 130万/年を研究奨励費として使うことができます。
これだけ聞くと、非常にお得な制度と思ってしまいがちですが、研究遂行経費には、使いきれなかった場合追徴課税を科されるというデメリットもあります。
損なのかお得なのか分かりづらい制度となっております。
しかし、ある一定額以上研究遂行経費を使用すれば、非常にお得な節税制度となります!
DC の研究遂行経費に関するブログは他にも多数存在しておりますので、本記事では PD を中心に以下、詳しく解説します。
メリット
研究遂行経費を利用すると、給料の見た目の額面が 3 割減になります。それによって、年収に基づいて計算される以下の固定費が安くなります。
所得税・住民税が安くなる
学振 PD の給料は年間 434 万円ですが、研究遂行経費を使い切ると額面は 304 万円になります。
細かい税金の計算は省略します。こちらのページの年収と税金の早見表を見て下さい。
年収 400 万円と年収 300 万円では、所得税と住民税の合計で約 9 万円の差があります。
つまり、研究遂行経費を利用することによって、所得税と住民税だけでも約 9 万円節税できるということになります。
どの程度安くなるのかは、研究遂行経費の消化率と PD 開始前 1〜3 月の前職の給料によっても左右されます。
国民健康保険料が安くなる
学振の特別研究員は雇用関係が無い無職扱いとなりますので、国民健康保険に加入しなくてはなりません。国民健康保険料は前年度の収入によって決まります。
こちらも細かい税金の計算は省略します。こちらのページの年収と国民健康保険料の早見表を見て下さい。
年収 420 万円と 320 万円の国民健康保険料を比較すると、約 10 万円の差があります。
つまり、PD の場合、研究遂行経費を申請することにより国民健康保険料が約 10 万円程度安くなる可能性があります。
どの程度安くなるのかは、研究遂行経費の消化率と PD 開始前 1〜3 月の前職の給料によっても左右されます。
授業料が安くなる(DC1 & DC2)
ほとんどの大学では、世帯収入に応じて授業料免除の認定が行われます。
学振 DC の場合、研究遂行経費を利用しますと年収が 168 万円になりますので、世帯収入が授業料免除の基準をクリアし、授業料免除が通りやすくなります。全額免除となるか、半額免除となるかは大学ごとに違うと思います。おそらく、半額免除が多いのでは無いでしょうか?
デメリット
使いきれなかったものに関しては、10.21 % の追徴課税がかかります。詳しくは、こちらの学振公式資料に記載されています。
しかし、この追徴課税は最終年だけです。
DC1 や PD の場合、1年目2年目の研究遂行経費を使いきれなかった場合には、翌年度の賞与として処理されます。ですので、税率は毎月もらう給与と変わりありません。
ですが、最終年度の研究遂行経費を使いきれなかった場合、翌年度はもう雇用関係がなくなってしまうので(もともと雇用関係など無いが)、翌年度に賞与として処理することができません。
そのため、最終年だけ追徴課税が科されます。
DC は最大で 7 万3512 円、PD は最大で 13 万 3056 円の追徴課税が科されます。
もともとの税率は 5% ですので、単純計算で DC で 3 万 6 千円、PD で 6 万 6 千円程度損をすることになります(実際の税金の計算は控除なども考慮してからの課税所得に対して税率をかけるので、もう少し複雑です)。
心配な方は、最終年度だけ研究遂行経費の申請をやめましょう。
どれくらい研究遂行経費を使えば得なのか?
研究遂行経費を使用することによる節税メリットと追徴課税のデメリットを比べてみて、単純計算してみました。
PD の場合だと 33.5 万円が節税と追徴課税がトントンとなる基準値だと思います(単純計算なので、誤差があると思います)。
ちなみに 33.5 万円は研究奨励金(満額)の 7.7 % にしか相当しません。
一応、研究遂行経費の消化率は研究奨励金の 3 割に満たなくても怒られることはありませんが、体裁上 1 割は超えておいた方が良いのではないのかな?と個人的には思います。
あと、本記事での計算は全て概算なので、もう少し余裕をみて多めに使っておいた方が良いかもしれません。
PD と同様に単純計算すると、DC の場合では 18.5 万円程度でトントンとなります。でも、DC はこれ以外に、授業料免除や勤労学生控除もあるので、もっと少ない額でもお得になるはずです。(授業料免除取れた時点で、追徴課税分の元は取れているはず。)
会計報告
研究遂行経費は科研費とは異なり、各年度ごとに自分で会計をして報告します。
支出は以下の 5 項目にまとめるように定められています。
- 学会関係経費
- 各種研究集会への参加費
- 学術調査に係る経費
- 自宅での研究に必要な経費
- 所属・関連期間への交通費
また、レシート等は、5 年間の保存が義務付けられています。
学会年会費、パソコン購入費、通信費、書籍代、学会参加費、交通費などを研究遂行経費として計上する方が多いと思います。
DC に関しては、学費や定期代が研究遂行経費では支払えないのが注意点です。また、PD と DC 共通で、家賃は研究遂行経費に計上できません。
そもそも研究遂行経費はどのようにして成立したのか?
自分で会計処理を行い、またレシート等は保管義務はあるものの提出はしなくて良いという非常にグレーな研究遂行経費制度ですが、なぜこのような精度ができたのでしょうか?
色々と調べてみたところ、当時の大蔵省との折衷案らしいです。
まとめ
研究遂行経費は特別研究員のための節税制度です。使わない手はありません。
追徴課税で損するのは最終年だけなので、少なくとも1、2年目は利用して損はありません。
研究遂行経費は、例えるならば、個人事業主の経費に相当するものです。
ちなみに、学振の特別研究員が税務署で個人事業主と主張すると「給与所得もらっておいて個人事業主のわけねーだろ!頭湧いてんのか?」と呆れられます。
その場合は、「雇用関係はないけど給与所得をもらっている」という謎説明で乗り切りましょう!
以下のツイートで個人事業主についてはまとめて記されています。
研究遂行経費 3 割は多すぎると思う方もいるかもしれませんが、1 割程度使えば元は取れます。あとは、使えば使う分だけ節税できますので、3 割はちょうど良い額かなと個人的には思います。
でも、研究遂行経費を使い切ろうと思って、不要な物をわざわざ購入するのはやめましょう。それこそ、無駄遣いです。
遠い昔の記憶を頼りに記事を作成しましたので、間違いも多いかもしれませんし、現在では色々と変更されている点も多いかもしれません。もしも、計算に誤りがありましたら、やさしく教えて下さい。
また、ツイートを勝手に載せないで欲しいという方がいましたら、メールで連絡して下さい。コメント欄はあまり頻繁にはチェックしておりません。