ダブルハイブリッド密度汎関数理論 doubly hybrid density al theory

ダブルハイブリッド密度汎関数理論 doubly hybrid density al theory とは、HF 交換積分と perturbation theory (PT2) 相関エネルギーを含む密度汎関数理論。このアイデアは 2004年に Donald Truhlar らによって最初に提案され、2006年にはStefan Grimme によって最初のダブルハイブリッド汎関数 B2PLYP が報告されました。
この記事では、その開発の経緯と有名なダブルハイブリッド密度汎関数を紹介しています。

開発の経緯

ダブルハイブリッド密度汎関数理論が発表される直前の時期に、ドナルド・トゥルーラーDonald G. Truhlar らは Gaussian-3 法 と reduced-order Møller-Plesset perturbation theory を基にした G3S(MP3)、G3S(MP2)、G3SX-(MP3) や G3SX(MP2) などの多係数相関法 Multicoefficient correlation methods (MCCMs) の研究を精力的に行なっていました。しかし、計算精度は高いが と計算コストが非常に高いことが問題でした。そこで、MCCMs よりも軽い計算コストで同様の計算精度を目指す汎関数の研究が始まりました。ちなみに、Truhlar はこのダブルハイブリッド汎関数が発表されるまでの数年間で多数の MCCMs の論文を発表してます。

2004 年にドナルド・トゥルーラーDonald G. Truhlar らが発表した論文 “Doubly Hybrid Meta DFT: New Multi-Coefficient Correlation and Density Functional Methods for Thermochemistry and Thermochemical Kinetics” にて言葉の定義がされています(参考文献 1)。運動エネルギー密度 kinetic energy density が含まれている場合は doubly hybrid meta density al theory、含まれていない場合は doubly hybrid density al theory と呼びます。ちなみに、ダブルハイブリッド汎関数は、ジョン・パデュー John Perdew が提唱したヤコブの梯子の 5 番目の格(こ)に相当します(占有仮想軌道からの情報の同時使用)。

Truhlar らは、複数の手法を組み合わせて MCCMs の問題点を解決しようと考えました。Truhlar らが報告した MCCM/3 法は、Hartree-Fock (HF) 法や Møller-Plesset 法(MP2、MP4SDQ、MP4) や CCISD、QCISD、QCISD(T) などを組み合わせたものです。このように複数の理論を組み合わせることは DFT でも行われていました。例えば、ハイブリッド汎関数 hybrid density al theory (HDFT) は Fock-Kohn-Sham operator level での HF と DFT の組み合わせであり、計算コストが と比較的小さいことから広く用いられていました

ダブルハイブリッド汎関数

2005 年に Grimme により最初のダブルハイブリッド汎関数 B2PLYP が報告されました(参考文献 3)。論文中では double hybrid という言葉は一切登場していませんが、B2PLYP はもっとも有名なダブルハイブリッド汎関数の一つです。Grimme 自身は new semi-empirical hybrid al と呼んでいました。その翌年の Grimme の論文では mPW2-PLYP が発表されています(参考文献 4)。いずれも Truhlar らが 2004 年に提唱した理論と同じ方向性で開発されています。その他のダブルハイブリッド汎関数で有名なものとしては、アダモ・カルロ Adamo Carlo らにより開発された PBE0DHPBEQIDH、J. Martin らにより開発された DSDPBEP86 などが挙げられます。

ダブルハイブリッド汎関数は一般に以下の式で表されます。HF 交換積分と perturbation theory (PT2) 相関エネルギーが一定の割合で混合されています。

   

MP2 の相関エネルギーを使用していることにより、ダブルハイブリッドは 分散力を精度よく表現できるとされています。ダブルハイブリッド汎関数では、電子相関は DFT フレームワークの中で random Phase Approximation (RPA) を用いて計算されており、これがダブルハイブリッド汎関数の特徴だそうです。

ダブルハイブリッド汎関数の大きなデメリットは、計算コストの高さです。MCCPs に比べれば計算コストは小さいですが、計算コストは です。そのため大きな系への適用は厳しいとされています。当然、ダブルハイブリッド汎関数の計算速度は純粋な DFT よりも遅いです。また MP2 の代わりに MP3 や MP4 や CCSD(T) を用いた マルチハイブリッド汎関数 multi hybrid al も研究されましたが、ダブルハイブリッド汎関数に比べて顕著な精度の向上は認められませんでした(参考文献 5)。

(一部、出典 Introduction of computational chemistry 3nd Ed.

種類

  • B2PLYP: B88 交換汎関数と LYP 相関汎関数を基に作られた(参考文献 4)。
  • B2PLYP-D
  • B2PLYP-D3
  • B2K-PLYP
  • mPW2PLYP: mPW 交換汎関数 LYP 相関汎関数を基に作られた(参考文献 4)。
  • mPW2PLYP-D
  • PBE0-DH: PBE0 汎関数を基に作られた(参考文献 6)。
  • PBE-QIDH
  • DSD-PBEP86

など。(今後追加していく予定です。)

gaussian で使うには?

gaussian 16 には、以下のダブルハイブリッド汎関数が実装されています。IOp 番号はいかに示す通りです(公式マニュアルには記載していません)。

  1. B2PLYP: IOp(3/74=-47)
  2. B2PLYP-D: IOp(3/74=-49)
  3. B2PLYP-D3: IOp(3/74=-60)
  4. mPW2PLYP: IOp(3/74=-48)
  5. mPW2PLYP-D: IOp(3/74=-50)
  6. PBE0-DH: IOp(3/74=-78)
  7. PBE-QIDH: IOp(3/74=-79)
  8. DSD-PBEP86: IOp(3/74=-77)

gaussian で実行する場合は、以下のように入力すれば計算できます。

%mem=16GB
%nprocshared=16
#p B2PLYP/6-31+G(d,p) opt

Title Card Required

0 1
 C                 -0.28735632    0.98850573    0.00000000
 C                  1.10780368    0.98850573    0.00000000
 C                  1.80534168    2.19625673    0.00000000
 C                  1.10768768    3.40476573   -0.00119900
 C                 -0.28713732    3.40468773   -0.00167800
 C                 -0.98473832    2.19648173   -0.00068200
 H                 -0.83711532    0.03618873    0.00045000
 H                  1.65731168    0.03599273    0.00131500
 H                  2.90502168    2.19633673    0.00063400
 H                  1.65788768    4.35690873   -0.00125800
 H                 -0.83725932    4.35696873   -0.00263100
 H                 -2.08434232    2.19666473   -0.00086200

記事中に間違い等ある場合は、コメント欄、twitter またはメールにてお知らせいただけると幸いです。

参考文献

  1. “Doubly Hybrid Meta DFT: New Multi-Coefficient Correlation and Density Functional Methods for Thermochemistry and Thermochemical Kinetics” Zhao, Y.; Lynch, B. J.; Truhlar, D. G. J. Phys. Chem. A 2004, 108, 4786-4791. DOI: 10.1021/jp049253v
  2. “Multi-coefficient extrapolated density al theory for thermochemistry and thermochemical kinetics” Yan Zhao, Benjamin J. Lynch and Donald G. Truhlar Phys. Chem. Chem. Phys. 2005, 7, 43-52. DOI: 10.1039/b416937a
  3. B2PLYP: “Semiempirical hybrid density al with perturbative second-order correlation” Stefan Grimme J. Chem. Phys. 2006, 124, 034108. DOI: 10.1063/1.2148954
  4. mPW2-PLYP: “Towards chemical accuracy for the thermodynamics of large molecules: new hybrid density als including non-local correlation effects” Tobias Schwabe & Stefan Grimme Phys. Chem. Chem. Phys. 2006, 8, 4398-4401. DOI:10.1039/b608478h
  5. “On the inclusion of post-MP2 contributions to double-Hybrid density als” Bun Chan, Lars Goerigk & Leo Radom J. Comput. Chem. 2016, 37, 183-193. DOI: 10.1002/jcc.23972
  6. PBE0-DH: Is There Still Room for Parameter Free Double Hybrids? Performances of PBE0-DH and B2PLYP over Extended Benchmark Sets. Diane Bousquet, Eric Brémond, Juan C. Sancho-García, Ilaria Ciofini, and Carlo Adamo J. Chem. Theory Comput. 2013, 9, 3444–3452. DOI: 10.1021/ct400358f
  7. “Double-Hybrid Functionals for Thermochemical Kinetics.” Alex Tarnopolsky, Amir Karton, Rotem Sertchook, Dana Vuzman & Jan M. L. Martin J. Phys. Chem. A 2008, 112, 3-9. DOI: 10.1021/jp710179r

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