近年話題の人工知能 (AI)。
以前の記事でも紹介しましたが、既に様々な場面で実社会でも利用されています。
その更なる飛躍のきっかけとなるかは分かりませんが、Optalysys 社が光コプロセッサを用いるテクノロジーを発表しました。
参考:【TOP500】スパコンランキングの見方!【Graph500_Green500】
TOP500 の NEWS 欄には、毎週スーパーコンピューターに関する最新情報が報告されています。残念ながら、日本のメディアではほとんど報道されません。
本ウェブサイトでは、それらのニュースを定期的に日本語で紹介していきます。
今回紹介する記事は、
“Optalysys Claims AI Breakthrough Using Optical Processing Technology”
March 20, 2018
概要
Optalysys 社は、光コプロセッサ (optical coprocessor) を使用して畳み込みニューラルネットワークを世界で初めて実装したと発表しました。
英国に本社を置く同社は、レーザーと空間光変調器(SLM)を使用して、非常に高速で複雑な数値処理を行い、電力をほとんど使用しない光学計算ハードウェアを開発しました。 この技術は HPC コプロセッサーとして実装されています。HPC コプロセッサーは、従来のコンピューター(デスクトップシステムまたはサーバー)に取り付けることを目的としています。 同社初のプロトタイプは 2014 年に発表されています。
Optalysys は、この最新のアプリケーションの詳細については詳しくは触れていませんが、手書きの数字の MNIST データセットに基づいて CNN を実装していると言います。 データセットは、60,000 のトレーニング文字と 10,000 のテスト文字で構成されています。 同社によれば、その光レーザー技術は、従来の電子ハードウェアよりも数桁も速くこのモデルを処理することができ、エネルギー消費も大幅に少なくすることができます。
「これは AI 分野における大きな飛躍であり、当社の Enabling Technology の世界的な可能性を明確に示しています。」とOptalysys の創設者兼 CEO、Nick New 博士は次のように述べています。「Optalysys社は、CNN の非常に複雑で計算量の多い分野に、初期精度率 70%以上で光学処理を初めて適用すことに成功しました。 独自のスケーラブルで高性能な光学的手法により、クラウドベースだけでなくモバイルシステムへの CNN の適用も可能な、全く新しいレベルの可能性を持ったモデルを開発しています。」
AI 以外にも同社はバイオインフォマティクス、気候シミュレーション、数学的処理など、数多くの分野でその技術を使用してきました。このような技術応用が、次のような proof of concept につながりました。
Project Genesys:Earlham Instituteの遺伝子検索システムのプロトタイプ。(Human Microbiome Project Mock Community で読まれた metagenomic reads の配列検索を実行します。)
Project Escape:欧州中規模気象予報センター(ECMWF)および他の 10 団体との共同研究により、次世代気象予測アルゴリズムの開発を行います。
Project Equate: プラズマモデルや流体力学のような大規模なシミュレーションの基礎となる複雑な数学的処理を探求するアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)との研究。
Optalysys は、光コプロセッサを AI に適用しようとしているスタートアップのうちの一つです。 これらの企業には Lighton、Light Intelligence、Fathom Computing、Lightmatter も含まれています。 この全ての企業が、ニューラルネットワークをエンコードするために様々な形の光学技術を使用しており、従来の CPU / GPU ベースの機械学習よりもはるかに高速で、エネルギー効率がはるかに高い技術の提供を約束しています。
感想
Optalysysは、イギリス・ケンブリッジ大学のスピンアウトCambridge Correlators Limited (CCL)として始まり、ビッグデータに挑む低消費電力かつ高速な光コンピューティングによるスーパーコンピュータの構築実現を目的に設立された法人組織だそうです。(参考文献 1)
GPU, TPU を使うだけでも劇的に機械学習が早くなったのに、光コプロセッサーを使うと更に早くなるという次のブレークスルーがもうそこまで来ているんですね。
今回の記事で光コプロセッサというものを初めて知りました。やはり TOP500 のニュースを読むのを勉強になります。
記事中に間違い等ある場合は、コメント欄、twitter またはメールにてお知らせいただけると幸いです。
参考文献
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