これまでも当サイトでは、Rh/Ru を用いた σ-bond activation に適した汎関数!や【Enthalpy】B3LYP での計算誤差について【Underestimation】や Diels-Alder 反応に最適な汎関数はどれ?など汎関数のベンチマークを紹介してきました。
今回は、NHC–Pd 触媒を用いた溝呂木・ヘック反応でのベンチマークの論文を紹介したいと思います。
“Theoretical Study on Selectivity Trends in (N-heterocyclic carbene)-Pd Catalyzed Mizoroki–Heck Reactions: Exploring Density Functionals Methods and Molecular Models”
Vitor H. Menezes da Silva, Ana Paula de Lima Batista, Oscar Navarro, Ataualpa A. C. Braga
J. Comput. Chem. in press. DOI: 10.1002/jcc.24867
概要
ブロモベンゼンとスチレンを基質とした NHC-Pd 触媒による溝呂木・Heck カップリング反応の位置選択性に対して、密度汎関数理論、波動関数(WF)に基づく方法および 2 つの異なるサイズのモデルリガンドを用いた検討が行われました。 WF法に加えて、TPSS-D3、
内容
今回の論文では、NHC–Pd 触媒を用いた溝呂木・ヘック反応において、regioselectivity をより正確に予測することを目的としてベンチマークの検討が行われました。Migratory Insertion のステップについて、種々の汎関数を用いた計算結果の比較が行われました。
今回用いられた汎関数は、全部で 14 種類です。そのうち分散力補正の入ったものが 8 種類: M06, M06-L, TPSS-D3, BP86-D3, PBE-D3, PBE0-D3, B3LYP-D3,
基底関数系としては、パラジウムには SDD が、その他には 6-31G(d) が構造最適化に用いられました。一点計算には SDD と 6-311+G(d) が用いられました。
model system の正確なエネルギーを用いるために、今回は domain-based local pair natural orbital coupled-cluster 法; DLNO-CCSD(T) が用いられました。
結果
嵩低い NHC リガンドに対しては、置換基が Me のもの、嵩高いものに関しては置換基が 2,6-diisopropylphenyl のものが使われました。嵩高いものに関しては、分散力補正がないと regioselectivity は正確には予測できないようです。
嵩低い NHC リガンドを用いた場合は、多少の誤差はあれ、すべての汎関数で regioselectivity をそれなりに予測できている感じがします。詳しくは論文の図を見てください。
NCI 解析によって、弱い相互作用は遷移状態の安定化に寄与していることが明らかとなりました。この相互作用は NHC リガンドと芳香環の間のものでした。
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