先月、JACS に分散力に関する面白い論文が掲載されていたので、簡単に紹介します。
“Attenuation of London Dispersion in Dichloromethane Solutions”
Robert Pollice, Marek Bot, Ilia J. Kobylianskii, Ilya Shenderovich, and Peter Chen, J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 13126–13140.
DOI: 10.1021/jacs.7b06997
概要
ロンドン分散力は、原子間および分子間の基本的な相互作用力の 1 つである。 現代の計算方法は、気相中の分散相互作用の強さを適切に記述するために開発されてきたが、溶液中の分子内および分子間分散力の重要性は、実験データが不十分であることもあり、まだ十分には理解されていない。 本論文では、気相中およびジクロロメタン溶液中の両方におけるプロトン結合ダイマーの結合解離へのロンドン分散力の寄与の詳細な実験および計算結果が報告されており、溶媒による分子間および分子内分散相互作用の減衰が大きいことが示されている( ジクロロメタンでは約 70%)。量子化学計算で用いられている現在の最先端の implicit solvent model は、(少なくともこのモデル系では)ロンドン分散力を適切に見積もることができない。
計算手法
今回の論文では、–100 °C から 30 °C まで温度変化させ、5-10 °C 毎に NMR の測定が行われました。
構造最適化は Orca を使って行われており、GGA (BP86, B97-D3) や meta-GGA (M06-L) で計算されています。基底関数系は、pc-2-sp(d) が使われています。
single point は DLPNO-CCSD(T)/CBS level of theory using the NormalPNO threshold.
溶媒効果の見積もりは、Gaussian09 D.01 の SMD か ADF2014 の COSMO-RS が用いられています。
分子間相互作用は、NCIPLOT 3.0 で可視化し、PyMOL で解析したようです。
内容
本論文では、T-CID 測定、計算化学および NMR 測定によって、気相および溶液中の多種多様なプロトン結合二量体の結合解離平衡について調べられています。ロンドン分散力は実験的に直接観測され、 repulsive Pauli exchange の大きな寄与を常に伴い、気相中の中〜大分子について非常に重要になると結論づけられていますが、分散力の引力としての寄与を完全には補填していません。
約70%減衰されているにもかかわらず、分散力の重要な引力としての寄与は、少なくとも選択された試験システムでは化学反応に関連する溶液温度でジクロロメタンに移行しています。このことは、ロンドン分散力を変更することは、実際には溶液中の化学プロセスの分子安定性を調整するための有用な設計原理となり得ます。
さらに、現在使用されている implicit solvent model では、溶液中の分散の減衰を、特に対応する寄与が大きくなるときに、不適切に見積もります。これは、エネルギーの適切な評価に関して代替の理論的アプローチおよびモデルが必要であることを示しています。
DFT+PCM や DFT+COSMO-RS で計算している方は、今回の論文を読んだ方が良いと思います。溶媒モデル使う際には引用してみては?
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