BMK 半経験的汎関数

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Boese と Martin が 2004 年に開発した半経験的汎関数。Boese-Martin for Kinetics の頭文字をとって BMK と自分たちで命名しています (参考文献 1 )。

概要

BMK 半経験的汎関数は B97 汎関数 に自己相互作用補正を加えた汎関数です。Boese と Martin は、これまで開発されてきた汎関数の問題点として、反応障壁のエネルギーを過小評価してしまうことや、遷移状態構造を見つけることができないことが少なくないことを挙げています。BMK は、それらの問題点を解決すべく、遷移状態構造を正確に(2 kcal/mol 以内の誤差で)探索することを目的として開発されました。BMK の元論文では、B97 汎関数に運動エネルギーを含めた B97-K も同時に報告されています (参考文献 1 )。

BMK は、遷移状態構造探索や活性化エネルギーの計算で良い結果を与えている交換汎関数(BH&HLYPmPW1KKMLYP)などを意識して開発されました。これらの汎関数は、遷移状態と活性化エネルギーの計算精度を高めるために、それ以外の計算の精度を犠牲にしていると Boese と Mrtin は述べています。BMKB97-k は共に、mPW1k と同様の精度で遷移状態を計算できている上に、遷移状態以外の計算においても良い結果を与えています。

B97-k の全体としても計算精度は、mPW1kB97-1 の中間程度です。一方で、BMKB3LYP よりもほとんどの物性計算で良い結果を示しましたが、構造と振動計算に関しては B3LYP よりもやや劣りました。しかし、遷移状態計算に関してはどの汎関数よりも良い結果を示しました。

検討

HCTH/407 以外のデータセットでも reference を取るために、W1 and W2 (Weizmann-1 and -2) computational thermochemistry protocols も使用したようです。

検討は、 MOLPRO 2002 electronic structure package を使って行われ、driver script は perl で書かれました。

パラメーターの設定の際には、CADPAC や gaussian03 で計算したエネルギーが参照されたようです。

設計

次の 7 つの目標を設定して BMK 汎関数は設計されました。

  1. 反応障壁の高さについて2 kcal / mol 未満の平均絶対誤差。
  2. 基底状態分子のエネルギー、構造、振動計算の平均絶対誤差が可能な限り小さいこと
  3. 交換汎関数と相関汎関数が分離していないこと (No separation between exchange and correlation functionals)
  4. 洞察を容易にするために、数学的にシンプルな汎関数であること
  5. 累乗級数の拡張。調整可能なパラメータの最大数が 10〜20 のオーダーになること
  6. より単純なスケーリング条件と交換孔をモデル化できること
  7. 遷移金属錯体や TM comlex や水素結合系など、できる限り多様なバランスの取れたパラメータ設定

使用例

BMK を単独で使っている論文はあまり見かけません。ベンチマーク論文で数ある汎関数の中の一つとして用いられている場合や複数の汎関数で一点計算する場合などが多いです。

BMK 単独で計算している論文を以下に二つ挙げておきます。

  • アレーン化合物の構造計算

名古屋大のグループから発表された C–H 活性化によるアリール化の論文 (参考文献 2)。ドデカ(p-クロロフェニル)コラニュレンの X 線結晶構造解析より、本来ボウル状であるコラニュレン (深さ0.87Å) が非常に平面に近づいている (深さ0.25Å) ことが明らかになり、DFT計算によっても支持されました(参考文献 3)。論文中では、BMK 半経験的汎関数を用いた理由について以下のように述べています。

BMK/cc-pVDZ は、face-to-face で近接しているアレーン化合物の計算では、B3LYP/6-31G(d) よりも信頼性の高い構造を与えると報告されています。なぜならB3LYP/6-31G(d) は、しばしば分子内の近接する \pi\pi 距離を過大評価してしまうからです。
The BMK/cc-pVDZ level of theory has been reported to produce more reliable structures than B3LYP/6-31G(d) for compounds with close face-to-face contact of arenes, because B3LYP/6-31G(d) often overestimates intramolecular close \pi\pi distances.

  • 硫黄求核剤によるトリクロロメチル基の還元反応の反応機構解析


(上記画像は、こちらの blogより)

記事中に間違い等ある場合は、コメント欄、twitter またはメールにてお知らせいただけると幸いです。

参考文献

  1. “Development of density functionals for thermochemical kinetics” A. Daniel Boese & Jan M. L. Martin J. Chem. Phys. 2004, 121, 3405. DOI: 10.1063/1.1774975
  2. “Palladium-Catalyzed C−H Activation Taken to the Limit. Flattening an Aromatic Bowl by Total Arylation” Qianyan Zhang, Katsuaki Kawasumi, Yasutomo Segawa, Kenichiro Itami, and Lawrence T. Scott. J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, 15664–15667.
    DOI: 10.1021/ja306992k
  3. Palladium-Catalyzed C-H Activation Taken to the Limit. Flattening an Aromatic Bowl by Total Arylation
  4. New paper in PCCP: CCl3 reduced to CH3 through σ-holes #CompChem
  5. “Reactivity of electrophilic chlorine atoms due to r-holes: a mechanistic assessment of the chemical reduction of a trichloromethyl group by sulfur nucleophiles” Guillermo Caballero-Garcı´a,ab Moise´s Romero-Ortegab and Joaquı´n Barroso-Flores. Phys. Chem. Chem. Phys.,
    2016, 18, 27300. DOI: 10.1039/c6cp04321f

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