虚振動に沿って動かせ!【IRC最後の一手】

当ウェブサイトでは、IRC 計算がうまくいかない場合の解決方法についてまとめた記事を発表しました。

参考IRC 計算がうまくいかない時の対処方法

この記事の中では、アルゴリズムの変更や GRRM の使用などを解決策として挙げていますが、それでも上手くいかないという場合があります。

万策尽きた最後の一手として、手動で振動方向に構造を動かし、そこから構造最適化を行うという方法があります。

log ファイルの中身を理解していれば、振動方向に構造を動かすことは簡単ですが、馴染みのない方にとっては難しいかもしれません。

そこで今回の記事では、IRC の問題を解決する方法として、振動方向に構造を変化させる方法を公開します。

TS の振動計算

まずは、TS の振動計算のファイルを用意しましょう。一般的には、opt=ts の際に一緒に freq キーワードを指定していると思います。

今回は、下記論文の TS3 を例として取り上げて解説したいと思います。

“Enzyme-catalysed [6+4] cycloadditions in the biosynthesis of natural products”
Zhang, B.; Wang, K. B.; Wang, W.; Wang, X.; Liu, F.; Zhu, J.; Shi, J.; Li, L. Y.; Han, H.; Xu, K.; Qiao, H. Y.; Zhang, X.; Jiao, R. H.; Houk, K. N.; Liang, Y.; Tan, R. X.; Ge, H. M. Nature, 2019, 568, 122–138.

SI から簡単に座標をコピーする方法は、下記の記事を参照してください。

参考クリップボード上の分子を GaussView で表示【Python】

log ファイルの読み方

freq 計算を行なった log ファイルの中には、以下のように Frequency が記載されている場所があります。「Frequencies — 」で検索すると簡単に見るかると思います。

それぞれの振動モードの下に、各原子が x, y, z 方向にどれくらい動くのかが書かれています。Gauss View での表示と対応させてみると分かりやすいと思います。

この部分の振動の値を読み取って、-1.0 〜 1.0 倍して座標情報に足してやれば虚振動方向に動かした座標になります。

それでは、実際にどのようにして虚振動方向に動かした座標を保存するのかを説明していきましょう!

その1 Gauss View を使う方法

Gauss View を持っている人は、Results > Vibrations を選択、Manual Displacement にチェックを入れ、スライドバーを動かしてみましょう。

ReverseForward それぞれちょうど良い構造になったら、その横の “save structure” で構造を保存しましょう!

実際の操作の様子を動画にしました。

Gauss View で虚振動方向に座標を動かした構造の保存の仕方

その2プログラムで変換する方法

虚振動方向に座標を動かすというのは、Gauss View を持っていればすぐに終わる作業ですが、中には Gauss View は持っておらず、Gaussian しか持っていないという人もいると思います。

そういう人は、簡単なスクリプトを書き、虚振動に沿って動かした構造を自分で作ってみましょう!以下に C++ で書いたプログラムを置きますので、ダウンロードしてみて下さい。

このプログラムでは、振動情報を 0.1 刻みで -1.0 〜 1.0 倍して座標に足していきます。

使い方は、いつもと同様で、

g++ TS_IT.cpp -o TS_IT
./TS_IT [filename]

実際の IRC 計算との比較

管理人の手元で確かめてみた感じでは、手動で虚振動方向に動かしてから構造最適化したものと、IRC 計算後に構造最適化したものも変わりはありませんでした。

コツとしては、虚振動方向に構造を変化させる際に、振動情報を 0.1 倍程度で加えることです。

振動情報を 1.0 倍で加えると、非常に不自然な構造となり、かえって構造最適化に時間がかかってしまいます。

あくまで、TS という山の頂点からちょっとズラしてやるだけで、後は自動的に坂をくだっていきます。

参考虚振動とは?遷移状態とは?

まとめ

論文などの実験項や Computational Details をみると以下の例のように IRC 計算を行なった旨が書いてあります。

The intrinsic reaction coordinate (IRC) calculations were performed at the same level of theory to assure the transition states could connect the reactants and expected product.

J Phys Org Chem. 2019, e4035.

Intrinsic reaction coordinate (IRC) calculations were used to characterize transition state structures.

Tetrahedron Lett. 2012, 53, 6919–6922.

このように、遷移状態構造最適化が終わった後は、IRC 計算を行わなくてはいけません。絶対に!

しかし、どうしても上手くいかない場合は、手動で虚振動方向に少し動かしてみてはいかがでしょうか?もちろん IRC 計算が上手くいかなかった旨を明言した上で。

どうしても IRC 計算が上手くいかなかった場合の言い訳は、以前の記事で紹介しました。

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