計算化学での MS スペクトルの予測

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近年、計算化学による NMR スペクトルの予測が非常に一般的になってきており、計算化学を専門としない人でも容易に利用できるようになりました。その一方で、MS の計算の仕方はまだまだ一般的ではないと思います。

計算化学による MS の予測に関する論文が少し前に Int. J. Quant. Chem に出ていましたので、簡単に紹介したいと思います。

Quantum chemical electron impact mass spectrum prediction for de novo structure elucidation: Assessment against experimental reference data and comparison to competitive fragmentation modeling
Peter R. Spackman, Björn Bohman, Amir Karton, Dylan Jayatilaka
Int. J. Quant. Chem. 2017;e25460., DOI: 10.1002/qua.25460

概要

著者らは、EI-MS における一般的なフラグメンテーション反応モデルである 61 の小分子セットに対して量子化学 EI-MS(QCEIMS)法を用いて MS スペクトルの予測を行いました。標準的なマッチングアルゴリズムを用いて実験スペクトルとの比較を行い、NIST-11 ライブラリー内のスペクトルと一致する実際の分子の相対ランキング位置を調べました。そうしたところ、正しい MS スペクトルが、構造異性体からの上位 2 つのものに 50%を超える確率でマッチすることが分かりました。すなわち、QCEIMS は化合物を同定するのに十分に良好なピーク分布を再現し、最も強度の高いピークはしばしば再現性がよくないことがありますが、予測スペクトルと実験スペクトル間の RMSD および平均誤差は、十分に小さいことが分かりました。
さらに、著者らは QCEIMS 法を機械学習ベースの質量スペクトル予測法と比較し、QCEIMS 法が同等またはそれ以上の性能を示すことを明らかにしました。QCEIMS は、マススペクトルデータベースにない新しい化合物を同定することを望む人にとって非常に有用であると結論づけられています。

MS の計算?

MS の計算といえば、Grimme が開発した QCEIMS が有名だと思います。というか、管理人はそれしか知りません。他の手法をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひコメント欄に書いてください。

QCEIMS のマニュアルについては、こちらのページに書かれています。


<画像は、こちらのページより転載>

フラグメンテーション予測については、Gauss View 6 でも十分に行うことができます。Grimme の手法では計算レベルがあまり高くないのですが、そもそもこの分野ではあまり計算レベルを上げて計算を行う必要がないのかもしれません。このような MS の予測は、一個一個丁寧に結果を解析していくような有機合成や酵素機能解析向けではなく、大量の化合物を一気に解析していくメタボロミクスの分野に求められていると思います。数万化合物の予測を行う必要上、計算レベルは下げざるを得ないと思います。また、MS 内部の過酷な環境を考えると、そもそも正確な予測をするのは難しく、コスパに見合わないと思います。

参考文献

QCEIMS and movies from QCEIMS trajectories

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